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留菜マナ
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第ニ百三十一話 希光の息吹③

公開日時: 2021年5月7日(金) 16:30
文字数:1,986

「お兄ちゃん、残りの調査対象のダンジョンには水の中のダンジョンはあるのかな?」

「妹よ、残念だが、そのようなダンジョンはないぞ」


花音が声高に思いのままを述べると、有は困ったように答える。


「なら、残りの調査対象のダンジョンには、どんなボスが出るのかな? どんな相手でも、私の天賦のスキルで倒してみせるよ!」

「花音。まだ、クエストの受注すらしていない。そして、攻略情報を確認したが、全てボスが居ないダンジョンだ」


花音が自信満々で告げると、奏良は呆れたようにため息をつく。


「……そ、そうなんだね」


自身のアイデンティティーを否定されて、花音は落胆した。


「攻略情報か。なら、やっぱり、全てオリジナル版にもあるダンジョンなんだな」

「攻略情報。なら、やっぱり、全てオリジナル版にもあるダンジョンなんだね」

「ああ。既に他の高位ギルドが達成しているようだ。貴重な素材は期待できないな」

「「ーーっ」」


有から、暗に貴重な素材は期待できないと言われて、望とリノアは悔しそうに言葉を呑み込む。


「「じゃあ、『氷の結晶』のような素材は?」」

「残りのダンジョンのクエストでは、手に入らないな」


奏良の非情な通告に、望とリノアは目に見えて落ち込んだ。


「ボスが居ないダンジョン。どんなダンジョンが残っているんだ?」


落ち込むリノアを見かねて、勇太は思い思いに尋ねる。

勇太の疑問を受けて、有はプラネットに目配せした。


「プラネットよ、頼む」

「はい」


有の指示に、プラネットは恭しく礼をする。

そして、軽い調子で指を横に振り、望達の目の前に残りのダンジョンを可視化させた。


護衛クエストのダンジョン。

探索クエストのダンジョン。

アイテム生成クエストのダンジョン。


異なる趣向のクエストのダンジョンが表示されている。

その中で、望は最後に可視化された不可思議なクエストに気づき、目を瞬かせた。


「「サモナークエスト?」」

「マスター、こちらは中級者クエストになります。『這い寄る水晶帝』というダンジョンでは、召喚のスキルを持たない者でも、モンスターなどを使い魔として召喚して呼び出すことができます。その呼び出した使い魔を、ダンジョン内で成長させることができたらクエスト達成になるようです」


望とリノアの質問に、プラネットは律儀に答えた。


『這い寄る水晶帝』。

少し変わり種の中級者クエストだ。

このダンジョン内では、召喚のスキルを持たない者でも、モンスターなどを使い魔として一体、召喚して呼び出すことができる。

その使い魔をダンジョン内で成長させることが、クエスト達成の条件になっていた。

だが、戦闘は通常どおりに発生するため、使い魔と連携していく必要性が示唆される。


どのような趣向を凝らして、使い魔を成長させるのかーー。


滅多に見ないクエストを前にして、居ても立ってもいられなくなったのか、花音が攻撃する際の身振り手振りを加えながら飛び跳ねた。


「わーい! すごい使い魔を呼び出せそうだよ!」


花音は両手を前に出して、水を得た魚のように目を輝かせる。

花音は、天賦のスキルのみを使うことができる。

召喚のスキルーー使い魔を呼び出すことができるという高揚感を抑えることができなかった。


「母さん。このクエストの詳しい情報を知りたい」

「恐らく、使い魔との交流クエストだろうね」


有の要望に、有の母親は可視化したそのクエストの名に触れる。

その瞬間、望達の目の前には、目的のクエストの詳細が明示された。


『這い寄る水晶帝にて、使い魔を成長させるサモナークエスト』


・成功条件

 使い魔の成長

・目的地

 這い寄る水晶帝

・受注条件

 特になし

・報酬

 回復アイテム5個

 転送アイテム5個

 飛行アイテム5個



「今回の報酬は無難な感じのものだな」

「今回の報酬は無難な感じのものだね」


当たり障りのない報酬を見て、望とリノアは感想を述べる。


「今回のクエストは達成するほどの報酬はないな」

「ああ。残りのダンジョンはまだ、四ヶ所、あるからな。このダンジョンは、調査のみに留めておいた方がいいだろう」


奏良の言及に、有は落ち着いた口調で答える。


「でも、お兄ちゃん。使い魔を呼び出して成長させるクエストなんだよ」

「その通りだ、妹よ。しかし、成長させても、仲間にすることはできないようだからな。今回は、外観調査と使い魔を呼び出すことだけに留めておいた方がいいだろう」


花音が声高に訴えを口にすると、有は意味ありげに表情を緩ませた。


「ううっ……。今回のクエストは、どうして報酬は無難なものばかりなのかな……」


有の思慮に、花音は名残惜しそうな表情で視線を落とす。


「心配するな、妹よ。今回のダンジョンのモンスターは、そこまで強くないようだ。それに俺達の方で外観調査は行うつもりだから、その間、思う存分、使い魔と戯れられるぞ」

「わーい! お兄ちゃん、ありがとう!」


有のさりげない配慮に、落ち込んでいた花音は両手を広げて歓喜の声を上げた。

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