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留菜マナ
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第四百話 未来永劫を願うだけ③

公開日時: 2023年6月30日(金) 16:30
文字数:953

ーー例え、世界が別つとも。

四人は決して逸れることがなきように手を握っている。

この蒼穹が、いつでも自分達を繋いでいてくれると信じているから。


「そうだろう? 美羅、それが君の望んだものの結果なのだから」


信也はこの状況に高揚していた。

美羅の望んだ世界なら誰しも苦しまなくていいから。

だから、一毅も美羅もお節介焼きだという思いを、せめて今だけは口にする。

それそのものを願いにはできないのなら、せめてもの、と。

想いを形にすることが出来ないから。

今はもういない彼女ーー美羅のために、この世界が創られたというのなら、私の役割はただ一つ、それを阻止しようとする者達の思考を変えることだーー。


「吉乃信也。君達の企みは私達が全力でそれを阻止する」

「ーーっ」


信也が攻勢に転じようとしたその時、紘が振りかざした槍が割って入ってくる。

鋭く重い音が響き、信也の身体が吹き飛ばされた。

連綿と続く攻防の中、『レギオン』と『カーラ』のギルドメンバー達が跳躍し、愛梨を捕らえようと迫る。


「愛梨に手を出すな!」


奏良は愛梨の前に立つと、絶え間なく弾丸を撃ち、『レギオン』と『カーラ』のギルドメンバー達の気を逸らそうとする。

数十発の風の弾が彼らの鎧に衝突し、大きくよろめかせた。


「愛梨に手を出させないからな!」


徹がそう叫ぶと、光龍はそれに応えるように重い唸りを上げて『レギオン』と『カーラ』のギルドメンバー達に襲いかかった。

一筋の閃光が空を切り裂いて、彼らを大きく吹き飛ばす。


「……徹くんの光龍」


光竜が『レギオン』と『カーラ』のギルドメンバー達を相手に戦う姿を目にして、愛梨は怯えるように肩を震わせていた。

不安そうに揺れる瞳は儚げで、震えを抑えるように胸に手を添える姿はいじらしかった。

望ならまず見せない気弱な姿に、花音は交戦していたモンスターから距離を取る。そして、愛梨のもとに駆け寄り優しく微笑んだ。


「愛梨ちゃん、大丈夫だよ。一緒にこの状況を打開しよう」

「……花音」


花音の殊勝な発言に、愛梨はそっと顔を上げる。


「徹くんの光龍、大丈夫かな?」

「うん」


泣き出しそうに歪んだ愛梨の表情を見て、花音は言葉を探しながら続ける。


「愛梨ちゃんが信じているなら、きっと大丈夫だよ」

「……ありがとう」


花音の励ましの言葉に、愛梨は花が綻ぶように無垢な笑顔を浮かべた。

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