「望!」
「勇太くん!」
冒険者ギルドを見回していた望達は突如、かけられた声に振り返った。
望達のもとに駆け寄ってきた勇太は、居住まいを正すと、改めてリノアの両親を紹介する。
「この間のクエストで知っているかもしれないけれど、リノアの両親だ」
「皆さん、初めまして。勇太くんから、話はお伺いしています」
「初めまして」
リノアの父親の真摯な対応に、望達もまた、自己紹介した。
望達の懇意に触れて、勇太は想いを絞り出すように宣言する。
「頼む! 俺達も、『キャスケット』に加入させてほしい!」
「……勇太くん」
思いの丈をぶつけられた望達は、その全てを正面から受け止める。
「ああ、よろしくな」
「勇太くん、よろしくね」
望と花音は吹っ切れたように、勇太の申し出を承諾した。
「僕達のギルドも、人が増えてきたな」
「ギルドホームを改装したのは、功を奏したようだな」
「そうですね」
奏良の言葉に、有とプラネットは同意する。
「遅くなってごめんな!」
やがて、望達がクエストへの協力要請をしたことで、徹は足早に冒険者ギルドへと赴いた。
イリスはギルドの外で、望達の警護に当たっている。
「今回、君の出番はない。僕が愛梨を守るからな。ただひたすら、後方で鍾乳洞の調査をしてくれ」
「……おまえ、一言多いぞ」
奏良の言及に、徹は恨めしそうに唇を尖らせる。
望達は徹と合流した後、王都『アルティス』の中央通りに立ち並ぶ店を回り、人数分の回復アイテムなどを揃えていく。
「『シャングリ・ラの鍾乳洞』、どんなダンジョンだろうか」
「氷の洞窟だから、やっぱり寒いよね。飛行アイテムを使えば、ダンジョンの上空も確認出来るかな?」
煉瓦造りの様々な店を前にして、望と花音は興味津々な様子で渡り歩いていった。
「『シャングリ・ラの鍾乳洞』に赴く前に一つ、確認しておきたいことがあるんだ」
それぞれが戦いに意識を高める中、徹は具体的な提案を口にする。
「確認したいこと?」
「ああ」
望の疑念に、徹は神妙な表情で答える。
「リノアの両親は、『レギオン』によって洗脳を受けていた。その時のーー洗脳した痕が、何か悪さをしないかどうか確認したいんだ」
「分かりました」
「よろしくお願いします」
徹の申し出を、リノアの両親は快く承諾した。
『我が声に従え、ララ!』
「ーーなっ!」
望の驚愕と同時に、望達の目の前に光輝く精霊が現れる。
「ララ、洗脳のチェックを頼む!」
「了解!」
金色の光を身に纏った人型の精霊。
妖精とさほど変わらない体躯の精霊ララは、主である徹の指示に従ってふわりと飛来した。
「精霊の力で、洗脳のチェックもできるんだな」
望は、リノアの両親の周りを浮遊するララを見つめる。
「徹、大丈夫だよ」
「ララ、ありがとうな」
ララの解析結果に、徹は安堵の表情を浮かべた。
だが、ララはすぐには消えずに、両拳を握りしめて訴える。
「徹。あたし、久しぶりに頑張ったよ。もっと、誉めて誉めてー。そして、もっともっと呼んでー」
「ああ。また、頼むな。ララ、確認してくれてありがとうな」
「えへへ……」
徹の称賛に、ララは嬉しそうに赤らんだ頬にそっと指先を寄せた。
その瞬間、徹が呼び出したララが消える。
周囲に視線を巡らせていた花音は、興味津々の様子で徹のもとを訪れると甘く涼やかな声で訊いた。
「ねえ、徹くん。今回、イリスちゃんは一緒に戦ってくれるのかな?」
「いや、イリスは、望達の警護を重点に置いているから、一緒には戦わないと思うな」
「……そ、そうなんだね」
徹の即答に、花音は目に見えて落ち込んだ。
「よし、一旦、戻るぞ! ギルドへ!」
「ああ」
「うん!」
「まあ、目的はほぼ果たしたからな」
有の指示に、望と花音が頷き、奏良は渋い顔で承諾した。
望達が転送石を掲げた有の傍に立つと、地面にうっすらと円の模様が刻まれる。
望達が気づいた時には視界が切り替わり、『キャスケット』のギルドホームの前にいた。
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