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留菜マナ
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第百六十五話 君に叶わぬ恋をしている①

公開日時: 2021年3月2日(火) 16:30
文字数:1,577

「望!」

「勇太くん!」


冒険者ギルドを見回していた望達は突如、かけられた声に振り返った。

望達のもとに駆け寄ってきた勇太は、居住まいを正すと、改めてリノアの両親を紹介する。


「この間のクエストで知っているかもしれないけれど、リノアの両親だ」

「皆さん、初めまして。勇太くんから、話はお伺いしています」

「初めまして」


リノアの父親の真摯な対応に、望達もまた、自己紹介した。

望達の懇意に触れて、勇太は想いを絞り出すように宣言する。


「頼む! 俺達も、『キャスケット』に加入させてほしい!」

「……勇太くん」


思いの丈をぶつけられた望達は、その全てを正面から受け止める。


「ああ、よろしくな」

「勇太くん、よろしくね」


望と花音は吹っ切れたように、勇太の申し出を承諾した。


「僕達のギルドも、人が増えてきたな」

「ギルドホームを改装したのは、功を奏したようだな」

「そうですね」


奏良の言葉に、有とプラネットは同意する。


「遅くなってごめんな!」


やがて、望達がクエストへの協力要請をしたことで、徹は足早に冒険者ギルドへと赴いた。

イリスはギルドの外で、望達の警護に当たっている。


「今回、君の出番はない。僕が愛梨を守るからな。ただひたすら、後方で鍾乳洞の調査をしてくれ」

「……おまえ、一言多いぞ」


奏良の言及に、徹は恨めしそうに唇を尖らせる。

望達は徹と合流した後、王都『アルティス』の中央通りに立ち並ぶ店を回り、人数分の回復アイテムなどを揃えていく。


「『シャングリ・ラの鍾乳洞』、どんなダンジョンだろうか」

「氷の洞窟だから、やっぱり寒いよね。飛行アイテムを使えば、ダンジョンの上空も確認出来るかな?」


煉瓦造りの様々な店を前にして、望と花音は興味津々な様子で渡り歩いていった。


「『シャングリ・ラの鍾乳洞』に赴く前に一つ、確認しておきたいことがあるんだ」


それぞれが戦いに意識を高める中、徹は具体的な提案を口にする。


「確認したいこと?」

「ああ」


望の疑念に、徹は神妙な表情で答える。


「リノアの両親は、『レギオン』によって洗脳を受けていた。その時のーー洗脳した痕が、何か悪さをしないかどうか確認したいんだ」

「分かりました」

「よろしくお願いします」


徹の申し出を、リノアの両親は快く承諾した。


『我が声に従え、ララ!』

「ーーなっ!」


望の驚愕と同時に、望達の目の前に光輝く精霊が現れる。


「ララ、洗脳のチェックを頼む!」

「了解!」


金色の光を身に纏った人型の精霊。

妖精とさほど変わらない体躯の精霊ララは、主である徹の指示に従ってふわりと飛来した。


「精霊の力で、洗脳のチェックもできるんだな」


望は、リノアの両親の周りを浮遊するララを見つめる。


「徹、大丈夫だよ」

「ララ、ありがとうな」


ララの解析結果に、徹は安堵の表情を浮かべた。

だが、ララはすぐには消えずに、両拳を握りしめて訴える。


「徹。あたし、久しぶりに頑張ったよ。もっと、誉めて誉めてー。そして、もっともっと呼んでー」

「ああ。また、頼むな。ララ、確認してくれてありがとうな」

「えへへ……」


徹の称賛に、ララは嬉しそうに赤らんだ頬にそっと指先を寄せた。

その瞬間、徹が呼び出したララが消える。

周囲に視線を巡らせていた花音は、興味津々の様子で徹のもとを訪れると甘く涼やかな声で訊いた。


「ねえ、徹くん。今回、イリスちゃんは一緒に戦ってくれるのかな?」

「いや、イリスは、望達の警護を重点に置いているから、一緒には戦わないと思うな」

「……そ、そうなんだね」


徹の即答に、花音は目に見えて落ち込んだ。


「よし、一旦、戻るぞ! ギルドへ!」

「ああ」

「うん!」

「まあ、目的はほぼ果たしたからな」


有の指示に、望と花音が頷き、奏良は渋い顔で承諾した。

望達が転送石を掲げた有の傍に立つと、地面にうっすらと円の模様が刻まれる。

望達が気づいた時には視界が切り替わり、『キャスケット』のギルドホームの前にいた。

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