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留菜マナ
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第ニ百十八話 心燿のロンド⑥

公開日時: 2021年4月23日(金) 16:30
文字数:1,733

「勇太くんはどんな技を覚えたんだ?」

「勇太くんはどんな技を覚えたの?」

「敵を一網打尽に出来る技だ」


望とリノアの問いかけに、勇太は躊躇いながらも応える。


「まあ、相手が相手だから効果があるとは言い切れないけれどな」

「そうなんだな」

「そうなんだね」


勇太は望達から目を逸らし、戸惑うようにつぶやいた。

作戦会議が一段落し、回復アイテム等で体力を回復させた後ーー。


「ここから先は上に続く階段になっている。だが、来る前に倒したモンスターは復活しているようだ」


慎重に為らざる得ない局面に、有はインターフェースで表示した『サンクチュアリの天空牢』のマップを視野に入れながら模索する。

上の階層に向かう前に、望達は装備やアイテムの最終確認をした。


「階段の途中で、モンスター達と戦うのは得策ではない。ここから、上のフロアまでのモンスターを一気に倒してしまうしかないな」


上の階層までの道筋を見下ろした有は覚悟を決める。


「望、リノア、勇太、妹よ。今回も、入口に待ち構えているモンスターを倒してほしい。徹、奏良、プラネットは、俺とともに上のフロアに行くまでの活路を切り開いてほしい」

「ああ」

「うん」

「螺旋階段上で戦うよりはマシか」


有の方針に、剣を構えた望とリノアが頷き、奏良は渋い顔で承諾した。


「よーし、一気に行くよ!」


花音は跳躍し、入口を塞いでいるモンスター達へと接近した。


『クロス・リビジョン!』


今まさに望達に襲いかかろうとしていたモンスター達に対して、花音が天賦のスキルで間隙を穿つ。

花音の鞭に搦(から)め取られた瞬間、鞭状に走った麻痺の痺れによって、モンスター達は身動きを封じられた。


「望くん、リノアちゃん、勇太くん、お願い!」

「ああ!」

「うん!」

「任せろ!」


花音の合図に、跳躍した望とリノアが剣を振るい、モンスター達を木端微塵に打ち砕いた。

残りのモンスター達は、勇太の大剣に切り刻まれて消滅する。


「奏良よ、頼む」

「言われるまでもない」


有の指示に、奏良は弾丸を素早くリロードし、銃を構えた。

発砲音と弾着の爆発音が派手に響き、螺旋状の階段途中に徘徊するモンスター達を次々と落ちていく。


「逃がしません!」


プラネットは吹っ切れた言葉ともに、両拳を落ちてきたモンスター達に叩きつけた。

それと同時に高濃度のプラズマが走り、爆音が響き渡る。

煙が晴れると、モンスター達は全て、焼き尽くされたように消滅していった。

だが、それでもモンスターは、行く手を阻むように跋扈している。


「お兄ちゃん、お願い!」

『元素復元、覇炎トラップ!』


先行した花音の合図に、有は襲いかかってきたモンスター達に向かって、杖を振り下ろした。

有の杖が床に触れた途端、空中に炎のトラップシンボルが現れる。

ボスモンスター達がそれに触れた瞬間、熱き熱波が覆い、炎に包まれた。

だが、モンスター達は炎を振り払い、襲いかかってくる。


「徹よ、頼む!」

「ああ」


有の指示に、徹は精霊を召喚した。


『我が声に従え、ララ!』

「ーーなっ!」

「ーーっ!」


徹の声と同時に、望達の目の前に光輝く精霊が現れる。


「ララ、モンスター達の動きを止めろ!」

「了解!」


金色の光を身に纏った人型の精霊。

妖精達とさほど変わらない体躯の精霊ララは、主である徹の指示に従ってふわりと飛来した。


「道を開けてもらうわよ!」


ララは浮遊したまま、モンスター達の行く手を塞いだ。

モンスター達が一斉に、ララに襲いかかる。


「そんな攻撃、意味ないわよ」


だが、それが放たれるよりも先に、ララは電光石火の早業で光の檻を生成させた。

モンスター達の逃げ道を塞ぐように、四方形の光の壁が具現化する。


「これで、しばらくは動けないよ」


モンスター達の咆哮をよそに、ララは得意げに腰に手を当てた。

ララは飛来して、徹の前で無邪気に笑う。


「徹。あたし、頑張ったよ」

「ララ、ありがとうな」

「えへへ……」


徹の称賛に、ララは嬉しそうに赤らんだ頬にそっと指先を寄せる。


「螺旋階段上での戦闘は避けられたな」


上の階層までたどり着いた有は、感嘆の吐息を漏らす。


「よし、このまま、上の階層まで行くぞ!」

「うん」


有の指示に真剣な口調で答えて、花音はまっすぐ螺旋階段上を見つめる。

螺旋階段を抜けた先には、望達が有達と合流したフロアが見受けられた。

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