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留菜マナ
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第ニ百七十八話 水想の言伝①

公開日時: 2021年6月23日(水) 16:30
文字数:1,547

「なら、それ以外の方法を望達とともに探してみせる!」

「……愚かな」


勇太の剣呑な眼差しに、賢は作業じみたため息を返す。

激動する戦闘の中、勇太と賢は激しく打ち合う。

一撃を捌くごとに強さと鋭さを増していく賢の剣戟に、勇太は息を呑む思いだった。


「望、リノア、ここは任せろ!」

「「……分かった!」」


勇太の後押しを受けて、望とリノアは有達のもとへと駆けていく。

だが、その道中に立ち塞がる存在が現れる。


「蜜風望、そして、椎音愛梨。女神様の完全な覚醒のために、おまえ達を頂きます」

「…………っ」


かなめは前に出ると、あくまでも事実として突きつけてきた。

側に居た『レギオン』のギルドメンバー達が、それぞれの武器を望達に突きつけてくる。


「ーーっ」


望が突破口を開くためにかなめ達に攻撃を仕掛ければ、恐らく位置座標をずらされたリノアもまた、有達、もしくは勇太に同じ攻撃を加えることになる。


仲間を救う力を得たはずなのに、その力で逆に仲間を傷つけてしまうかもしれない。


状況を覆る力を得ているとはいえ、望が今、この場で蒼の剣を振るえば、危機的な状況に陥りかねない。

望達とかなめ達による、隠しようもない戦意と敵意。

交錯する視線。


「お兄ちゃん、これからどうしたらーー」


予想外の出来事を前にして、花音が疑問を口にしようとした瞬間ーー


「喰らえ!」


奏良は距離を取って、続けざまに四発の銃弾を放った。

弾は寸分違わず、モンスターの頭部に命中する。

HPを示すゲージは少し減ったものの、いまだに青色のままだ。


「切りがないな!」


奏良はさらに迫り寄るモンスターに合わせて、銃の弾を全方位に連射する。

放たれた弾は、対空砲弾のように相手の攻撃にぶつかり、モンスターを怯ませた。

激しい撃ち合いによって、モンスターの動きを阻害していく。


「妹よ、まずはこのモンスターを倒すぞ。望達の救出はそれからだ」

「……うん!」


有の指示に、花音は躊躇いながらも肯定する。

有達は、モンスターと『レギオン』のギルドメンバー達を相手に、勇猛果敢に立ち向かっていた。


「よーし、一気に行くよ!」


花音は勢いのまま、鞭を振るい、モンスターへと接近した。


『クロス・レガシィア!』


今まさに奏良に襲いかかろうとしていたモンスターに対して、花音が天賦のスキルで間隙を穿つ。

花音の鞭によって、宙釣りになったモンスターは凄まじい勢いで地面へと叩き付けられた。


「はっ!」

「あっ……ダメージが……」


『レギオン』の魔術の使い手達は、即座にモンスターに対して手を翳(かざ)す。

その瞬間、モンスターのHPが一気に回復する。

花音の切羽詰まった声は、ぶつかり合った勇太と賢の剣戟に吸い込まれて消えた。


「くっ!」


勇太が波状攻撃を放てば、賢は手にした剣で軽々と全ての連撃を受け止めた。

だが、勇太は負けじと攻撃をさらに繋いでいく。

しかし、勇太の緊密な連携を前にしても、賢は重厚な剣で軽々と対応しきった。


『……お父さん、お母さん。私、女神様に生まれ変われるように頑張るね。だから、笑って、泣かないで。私はどんな姿になっても、お父さんとお母さんの娘だから』


不意に、リノアの父親の脳裏に、あの日の娘の笑顔が蘇る。

それは、彼らが洗脳されていた頃の家族の風景。

リノアに『美羅になること』を強要していた、歪なーーだが、確かに存在していた在りし日の光景。


「リノア……」


リノアの父親は蚊が鳴くような声でつぶやいて、自分の袖を強く握りしめた。


プロトタイプ版のみに存在するダンジョン。

そして、信也が告げた究極のスキルーー特殊スキルの真実。


危険な戦いに身を投じる事と引き換えに、リノアを救うことができる。

奇縁によって出会った、望達に与えられたリノアを救うための機会。

それは、現実世界さえも侵食していく、情けも容赦もない戦いへと発展していた。


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