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留菜マナ
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第ニ百十九話 心燿のロンド⑦

公開日時: 2021年4月24日(土) 16:30
文字数:1,798

「ここは、有達と合流した場所だな」

「ここは、有達と合流した場所だね」


望とリノアはフロアを突き進み、散発的に遭遇するモンスター達を倒しながら階段を下りる。


「「はあっ!」」


剣を一閃した望達はモンスター達の一角を切り開き、かなめ達がいるロビーを目指して、さらに下層へと階段を下りていく。

ロビーまでのフロアの探索を滞りなく終え、そこまでの道のりにかなめ達が待ち構えていないことを確認する。

そのタイミングで、花音は周囲を警戒しながら望に尋ねた。


「ここから先は、『カーラ』の人達と戦闘になるんだよね」

「ああ、恐らくな」

「うん、恐らくね」


花音の疑問に応えるように、望とリノアは前を見据える。


「『カーラ』の不意を突くかたちで、氷属性の飛礫アイテムを使う必要があるな」

「お兄ちゃん。私はモンスター達に対して、天賦のスキルを使うね」


有と花音は議論を交わしながら、それぞれの意気込みを語った。

望達が遭遇するモンスター達を倒しながら進んでいると、やがて広いフロアに出る。

平たい円柱状になったスペースは、『サンクチュアリの天空牢』の入口付近に配置されている地点だった。

中央には、望達が最初にいたロビーに繋がる道が見受けられた。


「ロビーまでは何事もなく、たどり着けたな」

「ああ。どういう事なんだろうか」

「うん。どういう事なのかな」


徹の発言に、望とリノアが通路を見渡しながら答えた。

てっきり、罠が仕掛けられていると思っていた望達は拍子抜けする。


「確か、この先には無限回廊に繋がる罠が仕掛けられていたんだよな」

「まだ、罠が設置されているのかな?」


徹の警告に、花音が複雑な心境を述べる。

その時、凛とした声がフロアに響き渡った。


『ようこそ、『キャスケット』の諸君』

「「なっ!」」


信也の宣言に、望とリノアは剣を構え、周囲を警戒する。


『心配しなくても、ここに居るのは君達だけだ。私達はロビーで待たせてもらっている』

「ーーっ」


信也は事実を如実に語ると、望の隣に立っているリノアを窺い見る。


『私はここから少し離れた場所から、君達と話しているからな。かなめ達も同様にーー』

「みんな、惑わされるなよ!」


信也の声を遮ったのは、前に進み出た徹だった。

徹は望達を護るようにして立ち塞がると、剣呑の眼差しを込めて告げる。


「吉乃信也は当初、『レギオン』のギルドホームに居ると言っていた。だけど、実際は『サンクチュアリの天空牢』で待ち構えていたからな。既に、囲まれていると考えた方がいいはずだ」

『……改めようか、その通りだ。プロトタイプ版の運営は、開発者側の私達が握っているからな。君達がここに訪れるタイミングを図ることなど動作もないことだ』

「なっ!」


信也が語った真実に、勇太は虚を突かれたように目を瞬かせてしまう。

疑問が氷解すると同時に戦慄させられた。


『しかし、残念だ。既に読まれていたのか』

「……おまえ、俺達が気づいていることを知っていて、わざと会話を続けていただろう」


信也の戯れ言に、徹は不満そうに表情を歪める。


『この場にいないということだけは事実だ。私はこの先のロビーに居るからな』

「とにかく、愛梨も紘も、そして望も、おまえ達に渡すつもりなんてないからな!」


信也の言葉を打ち消すように、徹はきっぱりとそう言い放った。


「そもそも、何故、ロビーに訪れる前に、俺達にコンタクトを取ってきたんだよ!」

『もちろん、警戒してもらうために』

「「……っ」」


信也の即座の切り返しに、望達は胡散臭そうに睨みつける。

信也は、望達に一瞥くれて言い直した。


『……というのは口実で、君達を追い詰めれば、蜜風望が『アルティメット・ハーヴェスト』の姫君に変わるかもしれないと言えば伝わるかな』

「やっぱり、愛梨を狙ってきたんだな!」

『そう取ってもらっても構わないよ』


徹の否定的な意見を前にしても、信也は予測していたように作業じみたため息を吐いた。

信也は望とリノアに視線を向けると一転して、柔和な笑みを浮かべる。


『蜜風望くん。美羅様が、椎音愛梨さんに会いたがっている。変わってもらえるかな?』

「……俺は変わるつもりはない!」

「……私は変わるつもりはない!」


確信を込めて静かに告げられた信也の再度の誘いは、この上なく望の心を揺さぶった。


『残念だ。なら、別の方法を考えるとしようか』


そこで、信也の声の通信は途絶える。

望達は、信也との会話の中で既に『カーラ』に囲まれている事を痛感していた。

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