「ここは、有達と合流した場所だな」
「ここは、有達と合流した場所だね」
望とリノアはフロアを突き進み、散発的に遭遇するモンスター達を倒しながら階段を下りる。
「「はあっ!」」
剣を一閃した望達はモンスター達の一角を切り開き、かなめ達がいるロビーを目指して、さらに下層へと階段を下りていく。
ロビーまでのフロアの探索を滞りなく終え、そこまでの道のりにかなめ達が待ち構えていないことを確認する。
そのタイミングで、花音は周囲を警戒しながら望に尋ねた。
「ここから先は、『カーラ』の人達と戦闘になるんだよね」
「ああ、恐らくな」
「うん、恐らくね」
花音の疑問に応えるように、望とリノアは前を見据える。
「『カーラ』の不意を突くかたちで、氷属性の飛礫アイテムを使う必要があるな」
「お兄ちゃん。私はモンスター達に対して、天賦のスキルを使うね」
有と花音は議論を交わしながら、それぞれの意気込みを語った。
望達が遭遇するモンスター達を倒しながら進んでいると、やがて広いフロアに出る。
平たい円柱状になったスペースは、『サンクチュアリの天空牢』の入口付近に配置されている地点だった。
中央には、望達が最初にいたロビーに繋がる道が見受けられた。
「ロビーまでは何事もなく、たどり着けたな」
「ああ。どういう事なんだろうか」
「うん。どういう事なのかな」
徹の発言に、望とリノアが通路を見渡しながら答えた。
てっきり、罠が仕掛けられていると思っていた望達は拍子抜けする。
「確か、この先には無限回廊に繋がる罠が仕掛けられていたんだよな」
「まだ、罠が設置されているのかな?」
徹の警告に、花音が複雑な心境を述べる。
その時、凛とした声がフロアに響き渡った。
『ようこそ、『キャスケット』の諸君』
「「なっ!」」
信也の宣言に、望とリノアは剣を構え、周囲を警戒する。
『心配しなくても、ここに居るのは君達だけだ。私達はロビーで待たせてもらっている』
「ーーっ」
信也は事実を如実に語ると、望の隣に立っているリノアを窺い見る。
『私はここから少し離れた場所から、君達と話しているからな。かなめ達も同様にーー』
「みんな、惑わされるなよ!」
信也の声を遮ったのは、前に進み出た徹だった。
徹は望達を護るようにして立ち塞がると、剣呑の眼差しを込めて告げる。
「吉乃信也は当初、『レギオン』のギルドホームに居ると言っていた。だけど、実際は『サンクチュアリの天空牢』で待ち構えていたからな。既に、囲まれていると考えた方がいいはずだ」
『……改めようか、その通りだ。プロトタイプ版の運営は、開発者側の私達が握っているからな。君達がここに訪れるタイミングを図ることなど動作もないことだ』
「なっ!」
信也が語った真実に、勇太は虚を突かれたように目を瞬かせてしまう。
疑問が氷解すると同時に戦慄させられた。
『しかし、残念だ。既に読まれていたのか』
「……おまえ、俺達が気づいていることを知っていて、わざと会話を続けていただろう」
信也の戯れ言に、徹は不満そうに表情を歪める。
『この場にいないということだけは事実だ。私はこの先のロビーに居るからな』
「とにかく、愛梨も紘も、そして望も、おまえ達に渡すつもりなんてないからな!」
信也の言葉を打ち消すように、徹はきっぱりとそう言い放った。
「そもそも、何故、ロビーに訪れる前に、俺達にコンタクトを取ってきたんだよ!」
『もちろん、警戒してもらうために』
「「……っ」」
信也の即座の切り返しに、望達は胡散臭そうに睨みつける。
信也は、望達に一瞥くれて言い直した。
『……というのは口実で、君達を追い詰めれば、蜜風望が『アルティメット・ハーヴェスト』の姫君に変わるかもしれないと言えば伝わるかな』
「やっぱり、愛梨を狙ってきたんだな!」
『そう取ってもらっても構わないよ』
徹の否定的な意見を前にしても、信也は予測していたように作業じみたため息を吐いた。
信也は望とリノアに視線を向けると一転して、柔和な笑みを浮かべる。
『蜜風望くん。美羅様が、椎音愛梨さんに会いたがっている。変わってもらえるかな?』
「……俺は変わるつもりはない!」
「……私は変わるつもりはない!」
確信を込めて静かに告げられた信也の再度の誘いは、この上なく望の心を揺さぶった。
『残念だ。なら、別の方法を考えるとしようか』
そこで、信也の声の通信は途絶える。
望達は、信也との会話の中で既に『カーラ』に囲まれている事を痛感していた。
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