「「あの子がNPC?」」
望とリノアは戸惑ったように言う。
「「それって……」」
「恐れる必要はありません」
凛とした声が、混乱の極致に陥っていた望とリノアを制する。
「美羅様は、特殊スキルであるーー究極スキルそのものです」
『カーラ』のギルドマスターである少女ーーかなめは、無感動に望達を見下ろしていた。
光の魔術を用いて、最上部の更なる上へと赴いたかなめ達は天井裏のフロアへとふわりと着地する。
「お兄様が告げたはずです。『創世のアクリア』のプロトタイプ版には、あなた方の知らない事実が隠されている、と」
「「ーーっ」」
かなめの追及に、望とリノアは事態の重さを噛みしめる。
「事実……? それってつまり、彼女は美羅なのか?」
「事実……? それってつまり、彼女は美羅なの?」
「はい。正確には美羅様の残滓です。ここは『創世のアクリア』のプロトタイプ版。久遠リノアに宿っている吉乃美羅様の『ゲーム用のモデル』が残っていても不思議ではないはずです」
かなめから少女の顛末を聞き、望とリノアは痛ましげな表情を見せる。
つまり、少女はリノアに宿っている美羅の『ゲーム用のモデル』ーーNPCということになる。
『助言だ。『創世のアクリア』のプロトタイプ版には、君達の知らない事実が隠されている。究極のスキルーー特殊スキルについてのこともな』
「……目の前にいる美羅が、究極のスキルそのものなのか。いや、この場合、その残滓と言った方がいいかもしれないな」
意外な局面。
奏良は以前、信也が口にした究極のスキルについてのことを、視野に入れながら模索する。
高位ギルド『レギオン』は、愛梨のデータの集合体である美羅の覚醒を企んでいた。
データの集合体である美羅の覚醒そのものが、実際にはあり得ない出来事だったが、『レギオン』はそれができると信じて邁進していた。
その結果、仮想世界だけではなく、現実世界までも、美羅の特殊スキルによる世界改変の影響を受けてしまった。
「美羅と同化したリノアは、彼女にとってはオリジナルの存在なのかもしれないな」
「……そうだな」
「……そうだね」
奏良の懸念に、望とリノアは窮地に立たされた気分で息を詰める。
明晰夢の中で見た、理想が体現された世界。
それは、リノアを犠牲することによって成り立つ世界だ。
美羅を宿したリノアは、今も虚ろな生ける屍になっている。
世界のために最愛を失うか、最愛のために世界を敵に回すか。
恐らく、『レギオン』と『カーラ』は躊躇うことなく、世界を選ぶだろう。
全ては、彼らが告げる世界の安寧のためにーー。
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