兄と妹とVRMMOゲームと

留菜マナ
留菜マナ

第五話 籠の中の少女は星を求める①

公開日時: 2020年10月28日(水) 16:00
文字数:2,043

「ーーわっ! お兄ちゃん、望くん、これを使ったら、ゲームの世界に入れるみたいだよ!」


携帯端末を掲げた花音が調子の外れた声を上げる。

スマートフォンに似たその端末には、画期的な機能が搭載されていた。

インターフェース機能が備わっており、これだけでVRーーバーチャルリアリティを堪能することができた。


「そのようだな、妹よ」


絨緞に座っていた有は携帯端末を横にかざし、視界に浮かんだゲームアプリを、指で触れてインストールを開始する。

インストールを終え、ゲームを起動させたことで、望達の視界は、先程までいた有の部屋からゲームのナビゲータールームへと変わった。


「すごいな。携帯端末だけで、ゲームの世界に入れるなんて……」

「うん、すごい!」

「他のVRMMOゲームでは基本、ヘッドマウントディスプレイを装着しなければならないが、『創世のアクリア』では携帯端末を使うだけで、ゲームの世界にログインすることができるとはな」


望の言葉に答えるように、花音と有は興味津々で周囲の様子を伺う。


『初めまして、わたくしはナビゲーターの『ペンギン男爵』と申します。皆様のサポートを務めさせて頂きます』


その時、目の前にナビゲーターのペンギンが現れた。

赤いリボンを付けていること以外は通常のペンギンの風貌と変わらない、そのスポットナビゲーターはぺこりと頭を下げる。


「ペンギン男爵さん、可愛いね」

『どうも』


花音が歓声を上げると、ペンギン男爵は照れたように頬を撫でる。


『それでは、キャラクターメイキング画面へと移行させて頂きます。まずは、パラメーターを振り分けて下さい』

「パラメーターから? キャラクターネームの設定とはないんだな」

「ネームは基本、実名で登録することになるようだ。もっとも、実名で登録することへの危険性は大いにあるが、そこは運営側がセキュリティを強化することで補っているようだな。また、実名で登録することで、ゲーム内で得たポイントなどを、お店などの商業施設で使うことができるようだ」


望が怪訝そうに首を傾げていると、ヘルプを表示させた有が訥々と説明した。


「パラメーター、どうするかな」


望が思い悩んでいると、腕を組んだ有はとんでもないことを口にする。


「よし、初期ステータスのポイントを、素早さに全振りするぞ!」

「お兄ちゃん、私も素早さに全振りするー!」

「素早さに全振り!?」


有と花音の突拍子のないポイント振り分けを見て、望は呆気に取られてしまう。

やがて、更なるペンギン男爵の指示に従い、望達はそれぞれ自身のアバターを作成した。


『キャラクターメイキングが完了しました。それではスキルを設定致します。スキルによって、使用することができる武器が確定致します』

「ああ」


望が応じると、望達の周りが蒼い光に縁どられていく。

呼吸するように揺れるその蒼は、煌めく海のような色だった。


「こちらが、あなた方のスキル名となります」


蒼い光が消えると、ペンギン男爵は軽い調子で指を横に振り、望達の目の前にそれぞれのスキル名を可視化する。


「俺のスキルは、『アイテム生成のスキル』だな。使える武器は、杖とメイス。後方支援のものばかりか」


有が少し不満そうに指先で自身のスキル名に触れ、適当にスライドする。

すると、音もなく、スキル名が消え去った。


「お兄ちゃん、望くん、私は『天賦のスキル』だよ! 使える武器は、全種類ってすごいね!」

「……全種類、『天賦のスキル』っていいな」


両手を握りしめて言い募る花音に熱い心意気を感じて、望は少し羨ましそうに頬を撫でてみせる。


「俺は、と……『魂分配(ソウル・シェア)のスキル』って何だろう?」


望がヘルプを表示させて、スキルの種類を確認しても、自分のスキル名は見つからない。

ペンギン男爵は申し訳なさそうに進言した。


『蜜風望様、あなた様のスキルは特殊スキルとなります』

「特殊スキル?」

『現状の四つのスキルには、当てはまらないスキルになります。特殊スキルは、この仮想世界『創世のアクリア』のみならず、現実世界をも干渉する力と伝えられております』

「現実世界をも干渉する力……」


ペンギン男爵の説明を聞いて、望は自身のスキルに想いを馳せる。


魂分配(ソウル・シェア)のスキル。

それはどういうカタチで、現実世界に干渉していくのだろうか。


『『魂分配(ソウル・シェア)のスキル』。蜜風望様の魂を他に分け与えるスキルとなります。ですが、こちらは一度きりしか使えない力のようですね』

「……一度だけか」


突きつけられた自身のスキルのデメリットに、望は肩を落として落胆する。

ペンギン男爵の指示の下、望達は自身が使う武器を決めていく。


『では、全ての準備が完了しました。ようこそ、想いを幻想へと導く世界、『創世のアクリア』へ』


ストーリーを語ると、ナビゲーターのペンギン男爵が消える。

やがて、望達が持っていた携帯端末が先程、設定した武器へと変換した。

同時に、望達の周りの光景も、異世界へと映り変わる。

そして、望達は『創世のアクリア』の世界へと招かれたのだった。

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