兄と妹とVRMMOゲームと

留菜マナ
留菜マナ

第百九十ニ話 澪明のセレネ④

公開日時: 2021年3月29日(月) 16:30
文字数:1,582

勇太達が、信也と邂逅していた頃ーー。


「今日は愛梨ちゃんの日だよね」


中学校から帰宅した花音は、想い出に浸るように携帯端末を見つめる。


「望くん……」

花音のつぶやきは虚空に溶ける。

不意に、花音は初めて、三人で『創世のアクリア』の世界へログインした日のことを思い出していた。


「ーーわっ! お兄ちゃん、VRMMOゲームってすごいね!」


両手を広げた花音が調子の外れた声を上げる。

スマートフォンに似たその端末には、画期的な機能が搭載されていた。

インターフェース機能が備わっており、これだけでVRーーバーチャルリアリティを堪能することができた。


「そのようだな、妹よ」


有は、花音と同様に興味津々だった。

VRMMOゲーム。

それはまだ、中学生の有にとっても未知の誘いだった。


「お兄ちゃん、私、ゲームしてみたい!」


花音は矢継ぎ早に捲し立てる。

それだけで花音の入れ込みようを察した。

漆黒の非透過型ヘッドマウンドディスプレイを外した有は、思考を加速させるように端末を見瞠る。


「他のVRMMOゲームでは基本、ヘッドマウントディスプレイを装着しなければならないが、『創世のアクリア』では携帯端末を使うだけで、ゲームの世界にログインすることができるとはな」

「うん」


有と花音は胸を滾らせながら、ゲームへの意気込みを語った。


「妹よ、望を誘ってやってみるつもりだ」

「望くん、びっくりしそうだね!」


有の言葉に、携帯端末を持った花音は大きく同意する。

だが、花音はすぐに思い出したように唸った。


「でも、望くん。『創世のアクリア』、一緒にしてくれるかな?」

「心配するな、妹よ。望なら、俺達と一緒にログインしてくれるはずだ」

「うん!」


有の発言に、花音は両手を広げて歓喜の声を上げる。


「よし、妹よ、早速、望に連絡するぞ!」

「うん!」


有の決意表明に、花音は嬉しそうに応えた。

有は携帯端末を操作して、『創世のアクリア』についての主旨を送る。

しばらく間を置いた後、望からの了承のメッセージが届いたのだった。






「わーい、望くん!」

「……っ。おい、花音」


望が有の家に訪れると、花音はとびっきりの笑顔で出迎えた。

望は花音とともに、有がいる二階の部屋へと入る。


「有、花音、新しいVRMMOゲームってどんな感じなんだ?」

「望よ、他のVRMMOゲームでは基本、ヘッドマウントディスプレイを装着しなければならない。だが、『創世のアクリア』では携帯端末を使うだけで、ゲームの世界にログインすることができるようだ」

「そうなんだな」


『創世のアクリア』の機能性に触れて、望は納得したように頷いてみせる。

携帯端末を手に取った花音の口調に熱が帯びた。


「お兄ちゃん、望くん、これを使ったら、ゲームの世界に入れるみたいだよ!」

「そのようだな、妹よ」


絨緞に座っていた有は携帯端末を横にかざし、視界に浮かんだゲームアプリを、指で触れてインストールを開始する。

インストールを終え、ゲームを起動させたことで、望達の視界は、先程までいた有の部屋からゲームのナビゲータールームへと変わった。


「すごいな。携帯端末だけで、ゲームの世界に入れるなんて……」

「うん、すごい!」

「他のVRMMOゲームでは基本、ヘッドマウントディスプレイを装着しなければならないが、『創世のアクリア』では携帯端末を使うだけで、ゲームの世界にログインすることができるとはな」


望の言葉に応えるように、花音と有は興味津々で周囲の様子を伺ったのだった。


「望くん……」


儚き過去への回想ーー。

沈みかけた記憶から顔を上げ、現実につぶやいた花音は、改めて望の様子を伺う。


「望くん、愛梨ちゃん、大丈夫だよね」


花音は自分に言い聞かせるようにつぶやくと、携帯端末をじっと眺める。


『創世のアクリア』の世界で得た特殊スキル。

それこそが、望と愛梨を結びつけた想念。

形の違う二つの想い。

それはやがて、一つの形へと成していった。

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