勇太達が、信也と邂逅していた頃ーー。
「今日は愛梨ちゃんの日だよね」
中学校から帰宅した花音は、想い出に浸るように携帯端末を見つめる。
「望くん……」
花音のつぶやきは虚空に溶ける。
不意に、花音は初めて、三人で『創世のアクリア』の世界へログインした日のことを思い出していた。
「ーーわっ! お兄ちゃん、VRMMOゲームってすごいね!」
両手を広げた花音が調子の外れた声を上げる。
スマートフォンに似たその端末には、画期的な機能が搭載されていた。
インターフェース機能が備わっており、これだけでVRーーバーチャルリアリティを堪能することができた。
「そのようだな、妹よ」
有は、花音と同様に興味津々だった。
VRMMOゲーム。
それはまだ、中学生の有にとっても未知の誘いだった。
「お兄ちゃん、私、ゲームしてみたい!」
花音は矢継ぎ早に捲し立てる。
それだけで花音の入れ込みようを察した。
漆黒の非透過型ヘッドマウンドディスプレイを外した有は、思考を加速させるように端末を見瞠る。
「他のVRMMOゲームでは基本、ヘッドマウントディスプレイを装着しなければならないが、『創世のアクリア』では携帯端末を使うだけで、ゲームの世界にログインすることができるとはな」
「うん」
有と花音は胸を滾らせながら、ゲームへの意気込みを語った。
「妹よ、望を誘ってやってみるつもりだ」
「望くん、びっくりしそうだね!」
有の言葉に、携帯端末を持った花音は大きく同意する。
だが、花音はすぐに思い出したように唸った。
「でも、望くん。『創世のアクリア』、一緒にしてくれるかな?」
「心配するな、妹よ。望なら、俺達と一緒にログインしてくれるはずだ」
「うん!」
有の発言に、花音は両手を広げて歓喜の声を上げる。
「よし、妹よ、早速、望に連絡するぞ!」
「うん!」
有の決意表明に、花音は嬉しそうに応えた。
有は携帯端末を操作して、『創世のアクリア』についての主旨を送る。
しばらく間を置いた後、望からの了承のメッセージが届いたのだった。
「わーい、望くん!」
「……っ。おい、花音」
望が有の家に訪れると、花音はとびっきりの笑顔で出迎えた。
望は花音とともに、有がいる二階の部屋へと入る。
「有、花音、新しいVRMMOゲームってどんな感じなんだ?」
「望よ、他のVRMMOゲームでは基本、ヘッドマウントディスプレイを装着しなければならない。だが、『創世のアクリア』では携帯端末を使うだけで、ゲームの世界にログインすることができるようだ」
「そうなんだな」
『創世のアクリア』の機能性に触れて、望は納得したように頷いてみせる。
携帯端末を手に取った花音の口調に熱が帯びた。
「お兄ちゃん、望くん、これを使ったら、ゲームの世界に入れるみたいだよ!」
「そのようだな、妹よ」
絨緞に座っていた有は携帯端末を横にかざし、視界に浮かんだゲームアプリを、指で触れてインストールを開始する。
インストールを終え、ゲームを起動させたことで、望達の視界は、先程までいた有の部屋からゲームのナビゲータールームへと変わった。
「すごいな。携帯端末だけで、ゲームの世界に入れるなんて……」
「うん、すごい!」
「他のVRMMOゲームでは基本、ヘッドマウントディスプレイを装着しなければならないが、『創世のアクリア』では携帯端末を使うだけで、ゲームの世界にログインすることができるとはな」
望の言葉に応えるように、花音と有は興味津々で周囲の様子を伺ったのだった。
「望くん……」
儚き過去への回想ーー。
沈みかけた記憶から顔を上げ、現実につぶやいた花音は、改めて望の様子を伺う。
「望くん、愛梨ちゃん、大丈夫だよね」
花音は自分に言い聞かせるようにつぶやくと、携帯端末をじっと眺める。
『創世のアクリア』の世界で得た特殊スキル。
それこそが、望と愛梨を結びつけた想念。
形の違う二つの想い。
それはやがて、一つの形へと成していった。
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