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留菜マナ
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第百一話 黄昏の塔と孤高の勇者⑦

公開日時: 2020年12月28日(月) 16:30
文字数:1,624

しばらく先を進んでいると、プラネットは後方から迫るモンスターの気配を感じ取る。


「させません!」


振り返ったプラネットは吹っ切れた言葉ともに、両拳を後方から襲いかかってきたケルベロス達に叩きつけた。

それと同時に高濃度のプラズマが走り、爆音が響き渡る。

煙が晴れると、後方に迫ってきていたケルベロス達は全て、焼き尽くされたように消滅していった。


「望くん達に手出しはさせないよ!」


花音は身を翻しながら、鞭を振るい、目の前に現れたキマイラ達を翻弄する。

だが、それはほんのわずか、キマイラ達の動きを鈍らせただけで動きを止めるには至らない。

だが、望がキマイラ達めがけて跳躍するのには、それだけで充分だった。


「はあっ!」


望の剣戟により、あっという間に一刀両断されたキマイラ達は、その場から姿を消していった。


「わーい! レベルが上がったよ!」


花音はインターフェースを使い、ステータスを表示させると、自身のレベルの上昇と新たなスキル技を覚えたことを確認する。

第ニ層の探索を滞りなく終え、望達は最上階を目指して、さらに上層へと階段を上がっていく。


「ここは?」


第ニ十層まで上がり、望達が散発的に遭遇するモンスター達を倒しながら進んでいると、やがて広いフロアに出る。

平たい円柱状になったスペースは、塔の中間ポイントになっている地点だった。

中央には、飛行モンスター達が舞う螺旋階段が見受けられる。


「どうやら、ここから先は螺旋階段になっているようだ」


意外な局面に、有はインターフェースで表示した『朽ち果てた黄昏の塔、パラディアム』のマップを視野に入れながら模索する。

第ニ十一層に向かう前に、望達は装備やアイテムの最終確認をした。


「しかし、螺旋階段の途中で、飛行モンスター達と戦うのは得策ではない。ここから、上のフロアまでのモンスターを一気に倒してしまうしかないな」


第ニ十一層までの道筋を見上げた有は覚悟を決める。


「望、奏良、プラネット、妹よ。上のフロアに行くまでの活路を切り開いてほしい」

「ああ」

「うん」

「はい」

「螺旋階段上で戦うよりはマシか」


有の方針に、それぞれの武器を構えた望と花音とプラネットが頷き、奏良は渋い顔で承諾した。


「よーし、一気に行くよ!」


花音は跳躍し、飛行型のモンスター達へと接近した。


『クロス・リビジョン!』


今まさに望達に襲いかかろうとしていたモンスター達に対して、花音が天賦のスキルで間隙を穿つ。

花音の鞭に搦(から)め取られた瞬間、鞭状に走った麻痺の痺れによって、飛行モンスター達は身動きを封じられた。


「望くん、お願い!」

「ああ!」


花音の合図に、跳躍した望が剣を振るい、飛行モンスター達を木端微塵に打ち砕いた。

だが、さらに三体の影が空中から襲いかかってくるのが見える。


「奏良よ、頼む」

「言われるまでもない」


有の指示に、奏良は弾丸を素早くリロードし、銃を構えた。

発砲音と弾着の爆発音が派手に響き、飛行モンスター達は次々と落ちていく。


「行きます!」


裂帛の咆哮とともに、プラネットは力強く地面を蹴り上げた。


「はあっ!」


気迫の篭ったプラネットの声が響き、行く手を遮る飛行モンスター達は次々と爆せていく。


「螺旋階段上での戦闘は避けられたな」


全ての飛行モンスター達を全滅させてみせた望達の姿を見て、有は感嘆の吐息を漏らす。

体力を回復させた後、有達は螺旋階段を上がり、第ニ十一層のフロアへと赴いた。


「あのモンスターは……!」


第ニ十一層のフロアの前に立っているモンスターを目にした時、言い知れない戦慄が望達の全身を駆け抜けた。

黒い牛のような巨体。

冷酷な光を称えた両眼は鬼火のように輝き、厚い鱗に覆われた全身には力が漲っている。


「どうやら、このフロアを守るモンスターのようだな」


有は固唾を呑む。

今まで戦ったどのモンスターとも異なる凄まじい殺気に、望達は背筋が凍るような悪寒を感じていた。

それは、『朽ち果てた黄昏の塔、パラディアム』の第ニ十一層を守る中ボス、『ベヒーモス』だった。

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