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留菜マナ
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第三百三十四話 此処はサンクチュアリ①

公開日時: 2022年3月25日(金) 16:30
文字数:1,535

「今回は、状況が状況だけに椎音紘も力を貸してくれるのか?」


奏良の真剣な眼差しに、徹は居住まいを正して自身の考えを纏める。


「ああ。恐らくな。次は、特殊スキルの使い手である望達を狙って、『レギオン』と『カーラ』は本格的に攻めてくるはずだからな」

「それと、『レギオン』と『カーラ』の者を捕らえる手段についてだ」


徹の言葉に、有は真剣な眼差しで捕捉する。


「……分かっているよ。ただ、紘は今、今後のことで他のメンバー達と会議をしているから、それが終わってからになる」


有の申し出に、徹は首肯し、申し訳なさそうにそう告げた。


「とにかく、ここじゃ目立つから、詳しい話はギルドの中で聞くからな」

「ああ」


徹の提案に、有は得心いったように頷いた。

徹に案内されて、望達は早速、白亜の塔へと向かう。

美しい外見と同様に、ギルドの中も荘厳な作りとなっていた。

床は磨き上げられた大理石のように、綺麗で埃ひとつない。

窓や壁も強襲に備えて、強度も高そうだった。


「徹様、お帰りなさいませ」


塔の入口に控えていたプレイヤー達が、一斉に恭しく礼をする。


「これから、上位ギルドの『キャスケット』と重要な話をする。あと、特殊スキルの使い手を狙って、『レギオン』と『カーラ』の襲撃があるかもしれないから、警戒を怠らないようにな」

「承知致しました」


徹の指示に、『アルティメット・ハーヴェスト』のメンバー達は丁重に一礼した。

徹達はギルドホームの二階に上がると、会議に使う一室へと入る。

テーブルには人数分の紅茶が並べられており、中央には三段重ねのスタンドが置かれ、スイーツが載っていた。


「わーい! すごく美味しそうだよ!」


豪華なスイーツを前にして、花音は屈託のない笑顔で歓声を上げた。

望達がそれぞれ席に座ると、徹が率先して紅茶とスイーツを口に運ぶ。

それに倣って、望達もカップを持つ。


「『アルティメット・ハーヴェスト』のお菓子は見て楽しい、食べて美味しいお菓子ばかりだね。スイーツと紅茶の味をここまで再現できるのはすごいよ!」


高価な嗜好品であるスイーツーーそのままの味に感動した花音が、両手を広げて喜び勇んだ。

『アルティメット・ハーヴェスト』で味わうスイーツと紅茶は、オリジナル版と同様に、現実のものとさほど変わらないほどの再現度である。

カップを置いた奏良は、心を落ち着けるように話を切り出した。


「厳重な警戒がなされているが、そもそも君達が管轄している場所は安全なのか?」

「紘の特殊スキルの力で、安全性を保っているはずだ。ただ、相手は同じ特殊スキルの使い手である美羅の加護があり、このゲームの開発者達でもあるからな」


奏良の要求に、徹は素っ気なく答える。


「安全が保証されている場所。つまり、それ以外の場所に赴くのは危険性が高いということか」

「それと『レギオン』と『カーラ』の管轄内にある場所もな」


有の確信に近い推察に、徹は肯定の意を込めて頷いた。


「現実世界を元に戻すための方法、リノアちゃんを救うための方法を探すためには、『レギオン』と『カーラ』の管轄内にある場所に赴く必要性があるのかな」


リノアを救う手段は、『レギオン』と『カーラ』の管轄内にある。

紘達の真意を見抜き、花音は不満そうに唸る。


「有、これからどうするつもりだ? 僕達もダンジョン調査に赴くのか?」


奏良が促すと、有の表情に明確な硬さがよぎった。


「奏良よ。ひとまず、ダンジョン調査は『アルティメット・ハーヴェスト』に任せてみるつもりだ」

「はい。前線に出なければ、『レギオン』と『カーラ』の思惑であるマスターの特殊スキルを使うことは少ないと判断します」


有の言葉に捕捉するように、プラネットは残りのダンジョンを的確に確認しながら言う。

紅茶を飲んで喉を湿すと、徹は改めて切り出した。

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