賢が繰り出す斬撃。
大剣を翻した勇太は、それを寸前のところで避ける。
「リノアは、美羅なんかじゃない! リノアにこれ以上、変なことをするな!」
「なら、彼女自身に認めてもらうしかないか」
勇太がはっきりと拒絶の言葉を叩きつけると、賢は吹っ切れたような言葉とともに不敵な笑みを浮かべた。
「蜜風望。美羅様の真なる力の発動には、君と椎音愛梨の力が必要だ」
「悪いけれど、俺は協力するつもりはない」
「悪いけれど、私は協力するつもりはない」
ゆっくりと手を差し出した賢の誘いに、望とリノアはきっぱりと否定する。
「そうか。だが、君達がいくら拒んでも、美羅様は君達を求める。君が椎音愛梨のために、この世界へとログインしているように」
「「なっ!」」
賢の静かな決意を込めた声。
付け加えられた言葉に込められた感情に、望とリノアは戦慄した。
「そして、私達もまた、君達、特殊スキルの使い手を手に入れるためにこれからも暗躍する。君達が行っていることは全て無駄だ」
「そんなことはない!」
「そんなことはないよ!」
憂いも喜びも、全ては美羅の特殊スキルの力で開闢されていく。
賢が掲げる理想に、望とリノアは沙汰を言い渡す。
「俺は、みんなを助けたい。だけど、みんなが悲しむことをするつもりはない」
「私は、みんなを助けたい。だけど、みんなが悲しむことをするつもりはないの」
「交渉の方は、決裂ということか」
確信を込めて静かに告げられた望とリノアの拒絶は、この上なく賢の心を揺さぶった。
椎音愛梨に特殊スキルを使わせるーー。
その絶対目的を叶えるために、賢達は最善な方法を模索してきた。
だが、賢達が如何(いか)にあらゆる策を弄(ろう)しても、紘の特殊スキル『強制同調(エーテリオン)』によって見抜かれてしまう。
しかも、現実世界が理想の世界へと変わり、美羅の特殊スキルの力が働いた今でも、プライバシー制度は行われている。
それは紘達、『アルティメット・ハーヴェスト』が、『レギオン』と『カーラ』から愛梨とリノアを守るために行っていることだった。
このままでは埒が明かないな。
一刻も早く、椎音愛梨の特殊スキルの力を発動させて、美羅様を完全な神に等しい存在にする必要がある。
ならば、蜜風望との戦いに勝利して、事を進めるしかないな。
賢は一拍だけ間を置くと、厳かにーーまるで神事を執り行う祭司の如く言った。
「ならーーここから始めようか」
晴れやかな表情さえ浮かべて、賢はそう告げる。
「本当の意味での仮想世界、そして現実世界、世界の全ての支配を」
「世界の全ての支配?」
賢の発言に、襲い掛かってきたモンスター達と戦闘を繰り広げていた勇太は怪訝そうに尋ねる。
「美羅様の特殊スキルの力は解放された。私達もまた、美羅様のご加護によって、『明晰夢』という神のごとき力を授かった。だが、まだ、一手足りない」
賢のつぶやきが、ダンジョン内に不気味に木霊した。
「美羅様がいれば、私達の求めている理想の世界はこのまま実現し続ける。その理想を永続的に成し得るためには、美羅様が椎音愛梨の特殊スキルを使用しなくてはならない。その時、真の意味で『レギオン』と『カーラ』は世界を救った救世主だとして称えられ、全ては美羅様のーー私達の思いのままになる」
「それが、おまえ達の狙いか……」
勇太は乱れた心を落ち着かせるように、大剣を強く握りしめた。
「改めて、問おうか? 蜜風望。美羅様の真なる力の発動には、君と椎音愛梨の力が必要だ」
「悪いけれど、俺は協力するつもりはない」
「悪いけれど、私は協力するつもりはない」
ゆっくりと手を差し出した賢の誘いに、望とリノアはきっぱりと否定する。
「そうか。なら、これならどうかな。君と椎音愛梨が、美羅様の真なる力の発動に協力してくれた場合、久遠リノアは美羅様の器という役目から解放され、元に戻ることができる。もちろん、美羅様の器という役目を終えた久遠リノアの退院の手続きは、こちらから申請しておこう」
「「なっ!」」
賢の静かな決意を込めた声。
付け加えられた言葉に込められた感情に、望達は戦慄した。
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