兄と妹とVRMMOゲームと

留菜マナ
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第三百ニ十ニ話 翡翠の残響⑤

公開日時: 2021年12月31日(金) 16:30
文字数:1,663

家に帰宅した後、紘と愛梨は徹との待ち合わせ場所であるショッピングモールへと足を運んだ。

夕闇色の空を背景に、紘と愛梨が並んで歩いていた。

駅に着いた紘達は、足早に人込みの中を歩き、近くのショッピングモールに立ち寄る。


「徹はまだ、来ていないみたいだな」

「……うん」


待ち合わせの相手である徹が来ていないことに気づくと、紘と愛梨はショッピングモールに置かれている商品に視線を巡らせる。

棚には、様々な商品が並べられていた。

紘達が居る一階には食料品から土産物、レストラン街、上階には本、雑貨などの日用品から、衣服、装飾品、VRMMOゲームの関連のお店もある。

お見舞い品として買えそうな店頭には、幾つものお菓子が紹介されたインターフェースホログラフィーが表示されていた。


「すごい……」


目の前に映し出される様々な光景に、愛梨は息を呑み、驚きを滲ませる。

紘と愛梨がショッピングモール内を散策していると、いつの間にか、待ち合わせの場所へと戻ってきていた。


「そろそろ、徹が来る頃だな」


紘は毅然とした態度で周囲を見渡すと、携帯端末に表示された時間を確認しようとしたーーその時だった。


「紘、愛梨、遅くなってごめんな!」

「ーーーーーーっ!」


唐突に響いた少年の声と自動ドアが開く音に、愛梨は声にならない悲鳴を上げる。


「よお、愛梨!」

「…………っ」


徹の気楽な振る舞いに、愛梨は怯えたように紘の背後に隠れた。


「そうやってすぐ隠れるところは、いつまでも変わらないな」

「徹。毎回、愛梨を驚かせるな」


徹が陽気な声で言うと、紘は不服そうに眉をひそめる。

徹は仕切り直すと、興味深そうに棚に並ぶ商品を見渡した。


「なあ、愛梨。これなんか、すごくないか?」

「……あっ」


徹の薦めに、愛梨は小さく声を漏らし、ショーケースに並ぶスイーツを見つめた。


「……ふわふわのプリンに、色とりどりのケーキ」


愛梨はスイーツに向かって指を動かし、視界に浮かんだ商品名と内容、値段などを確認する。

愛梨の視線がスイーツに釘付けになったところで、紘は改めて切り出した。


「徹、どうだった?」

「おっ、そうだった」


紘の指摘に、徹は鞄から携帯端末を取り出す。


「メッセージでも伝えたことだけどな」


そう前置きして、徹は沈痛な面持ちで語る。


「他のメンバー達が調べた内容を収集した結果、紘が懸念したとおり、機械都市『グランティア』と幻想郷『アウレリア』に赴くための経路が遮断されていた。転送アイテムや転送石、馬車や徒歩、様々な方法を用いたけれど、機械都市『グランティア』と幻想郷『アウレリア』に行くことが出来なかったんだよな」

「そうか」


徹の報告に、紘はほんの一瞬、戸惑うように息を呑んだ。


『レギオン』の拠点である機械都市『グランティア』。

『カーラ』の拠点である幻想郷『アウレリア』。

この二ヶ所は二大高位ギルドの拠点であり、何か重要な情報が隠されている。

歪な二つの世界を元に戻すための方法、究極のスキルーー特殊スキルに纏わるものが眠っているはずだ。


そんな紘の反応に、徹は表情を緩めて軽く肩をすくめてみせる。


「だけど、ここまで紘の啓示どおりだと、空恐ろしくなってくるな」

「だが、私の力も完璧ではない。同じ特殊スキルの使い手の力が働けば、それを覆されてしまうこともある」


紘は神妙な面持ちで、店頭のホログラフィーを眺める。


今回、紘は徹達に、機械都市『グランティア』と幻想郷『アウレリア』の調査を依頼していた。

自身の特殊スキル『強制同調(エーテリオン)』によって、『レギオン』と『カーラ』による、今後の企みを事前に織(し)っていたからだ。

それゆえに、『アルティメット・ハーヴェスト』のギルドメンバー達と連絡を取り、周辺の動向を念入りに探らせている。

しかし、二大高位ギルドのホームに赴く方法を見つけ出すまでは至らなかった。

今も、機械都市『グランティア』と幻想郷『アウレリア』に行く手段も見つからないまま、試行錯誤し、燻り続けている。


その理由は、同じ特殊スキルの使い手である美羅ーーリノアの力が、ゲーム内で望を通して何度も働いた結果だ。

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