「ああ、そうだな。愛梨、一緒に戦おう!」
顔を上げた望は胸に灯った炎を大きく吹き上がらせた。
驚愕する信也を見据えて、望はこの世界でたった一つだけの自身のスキルを口にする。
『魂分配(ソウル・シェア)!』
そのスキルを使うと同時に、望の視界は靄がかかったように白く塗り潰されていく。
身体の感覚も薄れて、まるで微睡みに落ちるようだった。
ーー仮想世界で愛梨と入れ替わるのは久しぶりだな。
遠くなる意識の中、望はただ一心にそう思った。
そして、望の意識が途絶えたーーその瞬間、望の身に変化が起きる。
光が放たれると同時に、腰まで伸びた透き通るようなストロベリーブロンドの髪がたなびく。
病的なまでに白い肌。
穢れなき白を基調したドレスは愛らしいフリルと金糸の刺繍で上品に彩られている。
まるで物語の中の眠り姫のような出で立ちに、一目で人を惹き付けるほどの美貌。
光が消えると、そこには望ではなく、愛梨が立っていた。
「……あの、銃の弾、借りてもいい?」
「あ、ああ」
三大高位ギルドの様々な思惑が交錯する戦局の中ーー。
ぎこちなく近づいてきた愛梨の頼みに、奏良は上擦った声で承諾した。
『……仮想概念(アポカリウス)』
その声は静かに場を支配した。
戦場に漂う空気が変わる。
愛梨は自身の特殊スキルーー仮想概念(アポカリウス)のスキルを使い、弾に自身のスキルの力を込めていった。
弾の外殻が次々と変色していく。
「椎音愛梨の特殊スキルか……」
特殊スキルで強化された弾を前にして、信也は思わず刮目してしまう。
信也は前持って、妹のかなめから愛梨の特殊スキルの厄介さを聞き及んでいた。
「奏良くん。上手くいくか、分からないけれど、弾に力を込めてみた」
「愛梨、ありがとう」
奏良は愛梨から受け取った弾丸を素早くリロードする。
カリリア遺跡のボスを葬った流星の弾丸。
これなら、『レギオン』と『カーラ』のギルドメンバー達を翻弄することができるだろう。
上手くいけば、光龍と戦闘を繰り広げている二体の骨竜を葬ることも可能かもしれない。
「このままでは状況が悪化しかねないな」
戦況に目を配っていた信也が不安を端的に言い表す。
全てが番狂わせだ。
特殊スキルの使い手である蜜風望と椎音愛梨は美羅にもっとも近い存在であるというのに。
過去より連なる結晶は、このような形で具現と成すというのだろうか。
特殊スキルの使い手は決して容易く替えが利くものではないというのに。
蜜風望と椎音愛梨は私達の理想の世界という安寧をーー地に投じようとしているのか。
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