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留菜マナ
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第ニ百ニ十話 心燿のロンド⑧

公開日時: 2021年4月25日(日) 16:30
文字数:1,769

「お兄ちゃん、これからどうするの?」

「妹よ、今は様子見だ。まずは、敵の位置を把握しなくてはならないからな」

「うん」


改めて、これからのことを確認する有の言葉に、花音は勇ましく点頭してみせる。


「徹様。電磁波の発信は、今も確認されません」

「今回は、ニコット達はいないのかもしれないな」


プラネットの思慮に、徹は複雑そうな表情で視線を落とすと、熟考するように口を閉じる。


「囲まれているのなら、奇襲は出来ないな。何らかの対策を立てる必要がある」

「ああ」


奏良の危惧に、有は深々とため息を吐いた。

世界を牛耳る力と謳われ、現実世界をも干渉する力である特殊スキル。

望とリノアの剣に特殊スキルの力が発動しているとはいえ、待ち構えている『カーラ』のギルドメンバー達の人数は軍勢に近いだろう。


「活路を見出せないな」

「活路を見出せないね」


望とリノアは剣を構えたが、包囲の一角を切り崩す術は見つからない。


「妹よ、『クロス・バースト』の発動までどのくらいの時間が掛かる?」

「そんなに時間は掛からないと思うよ」


有の問いかけに、花音は自分のスキルの発動時間を踏まえながら答える。


「『カーラ』の不意を突くかたちで、氷属性の飛礫アイテムを使うタイミングを図る必要があるな」

「お兄ちゃん。私はモンスター達に対して、天賦のスキルを使うね」


有と花音は議論を交わしながら、それぞれの意気込みを語った。

敢えて、周囲に居る『カーラ』のギルドメンバー達に聞こえるように声高に作戦を述べる。


「何のつもりだ……?」


その益体もない行為に、周囲を張っていた『カーラ』のギルドメンバー達は警戒を強める。

その時、何者かが近づいてくる足音がした。

しかし、振り返っても誰もいない。


「誰だ?」


『カーラ』のギルドメンバーの一人が怒涛の勢いで叫ぶ。

だが、返事は返ってこない。

しかし、次の瞬間、『カーラ』のギルドメンバーの一人は息を呑んだ。

望達とともに居たはずの勇太が自身に対して、大上段から大剣を振り落とす姿を目の当たりにしたからだ。


『フェイタル・トリニティ!』


勇太は、『カーラ』のギルドメンバー達の不意を突くようなかたちで大技をぶちかました。

勇太の放った天賦のスキルによる波動が、『カーラ』のギルドメンバー達を襲う。


「なっーー」


視線を誘起された『カーラ』のギルドメンバーの一人は、その不慮の一撃をまともに喰らう。

その瞬間、『カーラ』のギルドメンバーの一人は体力を失い、そのまま、この仮想世界から消えていった。

光を纏った大剣が、周囲にいた『カーラ』のギルドメンバー達さえも攻撃ごと吹き飛ばす。


「行くぜ!」


一網打尽とまではいかなかったが、勇太は次々と『カーラ』のギルドメンバー達を薙ぎ倒していく。


「よーし、私達も行くよ!」


裂帛の咆哮とともに、花音は力強く地面を蹴り上げた。

望達は、『カーラ』のギルドメンバー達に囲まれているという絶望的な状況を打破するために賭けに出た。

それは徹からの情報をもとに、『サンクチュアリの天空牢』の外にいるイリスを始めとする『アルティメット・ハーヴェスト』のギルドメンバー達に協力を求めることで、『カーラ』、高位ギルドの猛攻に対抗していくというものだった。


「望くんとリノアちゃんに手出しはさせないよ!」

「うわっ!」

「くっ!」


率先して先手を打った花音は身を翻しながら、鞭を振るい、『カーラ』のギルドメンバー達を翻弄する。

風の魔術による付与効果の影響で、鞭は舞い踊るように技を繰り出す。

だが、相手は高位ギルドのプレイヤー達だ。

容易く攻撃を喰らってはくれない。

『カーラ』のギルドメンバー達は、花音が振るった鞭を身体を反らし紙一重でかわした。


「あっ……」


完全に虚を突いたはずの攻撃を避けられて、花音は唖然とする。


「今だ!」


その隙を突いて、『カーラ』のギルドメンバー達のあらゆる属性の遠距離攻撃が花音を襲った。

投げナイフ、鎖鎌、ダガー、弓、魔術、召喚されたモンスターの咆哮。

全てを確認することが、不可能なほどの攻撃が一斉に花音に殺到する。


「「花音、危ない!」」

「……の、望くん、リノアちゃん」


絶体絶命の危機を前にして、花音の前に出た望とリノアは全ての攻撃を受け止めようと、特殊スキルが込められた剣を構える。

飛び道具を流れるような動きで弾くと、望とリノアは迫ってきたモンスター達と魔術の攻撃をいなした。

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