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留菜マナ
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第四百八十一話 夏の風に揺れる④

公開日時: 2024年5月24日(金) 16:30
文字数:1,016

『特殊スキルをどう使ったら、この世界から出られるんだ?』

『『創世のアクリア』の世界で愛梨と入れ替わる際、君の想いに応えるように愛梨の声が聞こえていたはずだ。それと同じように、今度は君が愛梨の想いに応えればいい』


長い沈黙を挟んだ後で、紘は淡々と答える。

驚きを禁じ得ない紘の発言に、望は不可解そうに首を傾げた。


『愛梨の想いに?』

『蜜風望、この世界から出られるかは君次第だ』


あの日の出来事を思い返していた望は考え込む仕草をした。

そこに意味があるように。


みんなを守る力がほしいーー。


それは、望自身のスキルを使えば叶うと信じている。

望は目を閉じて、愛梨の想いに応えようとした。

愛梨の想いに応える術はないのかもしれない。

この部屋の上部に何があるのかなんて分からない。

それでも、望は諦めなかった。


『……みんなの力になりたい』


不意に愛梨の声が聞こえた。

それは望を介し、望の意味が付与された愛梨の想い。


「ああ、そうだな。俺はーーいや、俺達は諦めない!」

「うん、そうだね。私はーーいや、私達は諦めない!」


顔を上げた望とリノアは、胸に灯った炎を大きく吹き上がらせた。


『アーク・ライト!』

「……っ!」


リノアの父親は光の魔術を使って、望とリノアの体力を回復させる。


『お願い、ジズ! 彼らに力を与えて!』


それと同時にリノアの母親も、自身の召喚のスキルで小さな精霊を呼び出し、望とリノアの攻撃力を上げた。


「リノア、望くん。私達も出来る限りの援護をしていくつもりだ」

「リノア、頑張って」

「「はい!」」


リノアの両親の懇願に、望とリノアは嬉しそうに笑みを零した。

今もまだ、奏良の風の魔術の効果は持続している。

望とリノアは大きく身体を動かすと、突き抜けるように有がいる天井へと駆け上がった。


「望、リノアよ!」

「有、残りの罠は俺達で何とかする!」

「有、残りの罠は私達で何とかする!」


望とリノアは前を見据えて、この世界で、たった一つだけの望自身のスキルを口にする。


『魂分配(ソウル・シェア)!』


そのスキルを使うと同時に、望とリノアの剣からはかってないほどの力が溢れていた。


「「はあっ!」」


望とリノアはその一刀に全てを託し、天井に向かって剣を振り下ろす。

その瞬間、望とリノアの剣戟に切り刻まれた空間が二つに切り裂かれる。


「「ーーっ」」


室内にまばゆい光が溢れると同時に、靄がかかったように、望達の視界が白く塗りつぶされていく。

天井に設置されていた罠が次々と消滅していくのを感じた。

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