「プラネットよ、『アルティメット・ハーヴェスト』が提示してきたクエストの表示を頼む」
「はい。有様、こちらをご覧下さい」
有の指示に、プラネットは恭しく礼をする。
そして、軽い調子で指を横に振り、望達の目の前に複数のクエスト名を可視化させた。
討伐クエスト。
護衛クエスト。
探索クエスト。
アイテム生成クエスト。
様々な種類のクエストが表示されている。
それを視野に納めている最中で、望は簡単なクエストではないものが混ざっている事実に気づき、目を瞬かせる。
「ダンジョンの調査に関するクエスト?」
「マスター。こちらは、『アルティメット・ハーヴェスト』の管轄内にあります、ダンジョンの調査依頼になっています」
望の質問に、プラネットは律儀に答えた。
「ダンジョンの調査依頼……」
リノアへの募る想いを抱きながらも、勇太もまた、そのクエストの情報に目が止まった。
それは、『アルティメット・ハーヴェスト』の管轄内にあるダンジョンの調査に関するクエストだった。
その調査対象は、強制ログアウトが発生した場所である『朽ち果てた黄昏の塔、パラディアム』も含まれている。
あの塔に行けば、何か分かるかもしれないな。
勇太は寂しげにそう思った後、悩みを振り払うように首を横に振った。
「……いや、分からなくてもいい。リノアを元に戻すためのきっかけが掴めればいいんだ!」
「勇太くん」
勇太の決意に、望は躊躇うように応える。
闇雲に探しては時間が掛かり過ぎる。
時間がかかる分だけ、リノア達に負担がかかってしまう。
なら、方法は選んでいられない。
「今度こそ、絶対にリノアを救ってみせる!」
勇太は背負っている大剣を見据えると、改めて提示されている調査クエストへと向き合った。
勇太が今、対峙するべきは、眼前のクエストだ。
そして、賢達への邪念よりも先に、大切な幼なじみを守るという信念。
「俺は、このクエストに行きたい!」
「はい。リノア様を救う手がかりを掴めるクエストだと思います」
断定する形で結んだ勇太の申し出に応えるように、プラネットは笑顔で祝福する。
「望、奏良、プラネット、妹よ。このクエストを受けるか。それとも別のクエストを探すか」
「お兄ちゃん、そんなの決まっているよ!」
問いにもならないような有のつぶやきに、花音は人懐っこそうな笑みを浮かべて言った。
「このクエスト以外を選ぶなんて、私達らしくないもん」
「そうだな」
予測できていた花音の答えに、望は笑みの隙間から感嘆の吐息を漏らす。
「リノアを救うために、まずはこのクエストを受けるしかないな」
「うん」
望の決意の宣言に、花音は意図して笑みを浮かべてみせた。
有達のギルド『キャスケット』。
誰かと共にあるという意識は、押されていてもなお、決して自分達が負けることはないという不屈の確信をかきたてるものだと望は感じた。
盛り上がる望達を背景に、承服できない奏良は素っ気なく答える。
「僕は、他のクエストでも構わない。そもそも、あの塔に行けば、彼女を元に戻すきっかけが見つかるとは限らない。それにまた、ガーゴイルの大群に襲われるのは勘弁してほしいからな」
「もう、奏良くん! 愛梨ちゃんのために、ガーゴイル戦、頑張ろうよ!」
「……花音。何故、そこで愛梨の名前を出すんだ?」
花音のどこか確かめるような物言いに、奏良は不快そうに顔を歪めた。
「何だ、奏良。勝てない勝負なら、諦めるのか? 確かに、徹と愛梨はいつも仲良く通学しているようだな」
「……仲良く」
有が神妙な面持ちで告げると、奏良は不意を突かれたように顔を硬直させる。
「愛梨に、あんな男は相応しくない」
「そう言えば、ダンジョンの調査クエストには、柏原勇太以外にも、徹が同行するのだったな。徹の召喚のスキルを使えば、ガーゴイルの大群を蹂躙することができそうだ」
「ーーなっ!」
有が意味深な表情で事実を口にすると、奏良の愛執に亀裂が走った。
「これって、一体……」
勇太は、予想外の騒動を目の当たりにしたことで唖然としてしまう。
すると、花音は悪戯っぽく目を細める。
「あのね、勇太くん。心配しなくても、大丈夫だよ。奏良くん、愛梨ちゃんのためなら頑張るから、その気にさせているんだと思う」
「そ、そうなのか……」
探りを入れるような花音の言葉に、勇太は窮地に立たされた気分で息を詰めた。
「奏良よ、そういうことだ。ガーゴイル戦の主戦力は、おまえに任せる。もしかしたら、望を通して、愛梨におまえの活躍が伝わるかもしれないからな」
「分かった。愛梨のために、僕はガーゴイル達を討伐しよう」
「ーーっ」
有に上手く丸め込まれている奏良を見て、望は申し訳ない気持ちになったのだった。
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