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留菜マナ
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第五百四十一話 黄昏の想いは⑧

公開日時: 2024年12月20日(金) 16:30
文字数:1,044

「彼らとともに今すぐ、ここから立ち去りなさい」

「お断りします。ニコットはこのまま、指令を続行します」

「そうですか……」


イリスの言葉に返ってきたのは、提案でも懐柔でもなく、断固とした拒絶。

その折りを見計らって、イリスはニコットの追撃を捌き、花音達のもとへと跳躍した。


「イリスちゃん!」

「皆様、ご無事で何よりです」


花音が安堵の表情を浮かべると、戦闘を切り上げたイリスは誠意を伝えてくる。


「イリス。他のメンバー達とともに、望達がこの場を切り抜けるまでの時間を稼げるか?」

「徹様、問題ありません」


徹の指示に、イリスが槍を素早く構え直し、気合いを入れる。


「時間を稼いでみせます!」

「ーーなっ」


イリスは、『レギオン』のギルドメンバー達の挙動に注意を傾ける。

彼女は躍動すると、望達に襲い掛かってきた『レギオン』のギルドメンバー達を勢いよく叩き伏せた。

この瞬間、『レギオン』のギルドメンバー達の目標はイリスに切り替わった。

次々と襲いかかって来る集団を、イリスは機敏な動きでかわす。


「ニコットは、妨害対象を排除します」


だが、イリスが着地した隙を見逃さず、ニコットは数本のダガーを彼女に向けて投げた。


「残念ですが、その攻撃は通じません」


イリスは槍を構え直すと、ニコットが放ったダガーを捌いていく。

しかし、その間隙を突いて、ニコットが再び、数本のダガーを投げる。

認識も意識もしているのに反応しても間に合わないーーそんな致命的な攻撃は別の者が対処した。


「イリス様!」


一瞬前までいなかったプラネットが持ち前の瞬発で駆けつけ、イリスを付け狙ったダガーの軌跡を捌いたのだ。


「イリス様、良かったです」

「……感謝します」


恭しく頭を下げるプラネットを見て、槍を携えたイリスは毅然とした態度で物怖じせずに言う。

長く赤みがかかった黄金色の髪を揺らし、人形のように整った顔立ちをした彼女は、紺碧の瞳をまっすぐプラネットに向けてくる。

戦闘の喧騒の中、二人だけ時間が止まってしまったかのように視線が交錯した。


「同じNPC同士、力を合わせていきましょう」

「私達NPCは、マスターに従うまでです。それ以上でもそれ以下でもありません」


ほんわかな笑みを浮かべて言うプラネットを見て、イリスは剣呑の眼差しを返す。


「イリスは相変わらず、他のNPCに対して厳しいな」

「……プラネットさんには感謝しております。ですが、徹様、私は自分の考えを改めるつもりはありません」


徹の気楽な振る舞いに、イリスはプラネットを一瞥し、あくまでも自身の信念を貫き通した。

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