「彼らとともに今すぐ、ここから立ち去りなさい」
「お断りします。ニコットはこのまま、指令を続行します」
「そうですか……」
イリスの言葉に返ってきたのは、提案でも懐柔でもなく、断固とした拒絶。
その折りを見計らって、イリスはニコットの追撃を捌き、花音達のもとへと跳躍した。
「イリスちゃん!」
「皆様、ご無事で何よりです」
花音が安堵の表情を浮かべると、戦闘を切り上げたイリスは誠意を伝えてくる。
「イリス。他のメンバー達とともに、望達がこの場を切り抜けるまでの時間を稼げるか?」
「徹様、問題ありません」
徹の指示に、イリスが槍を素早く構え直し、気合いを入れる。
「時間を稼いでみせます!」
「ーーなっ」
イリスは、『レギオン』のギルドメンバー達の挙動に注意を傾ける。
彼女は躍動すると、望達に襲い掛かってきた『レギオン』のギルドメンバー達を勢いよく叩き伏せた。
この瞬間、『レギオン』のギルドメンバー達の目標はイリスに切り替わった。
次々と襲いかかって来る集団を、イリスは機敏な動きでかわす。
「ニコットは、妨害対象を排除します」
だが、イリスが着地した隙を見逃さず、ニコットは数本のダガーを彼女に向けて投げた。
「残念ですが、その攻撃は通じません」
イリスは槍を構え直すと、ニコットが放ったダガーを捌いていく。
しかし、その間隙を突いて、ニコットが再び、数本のダガーを投げる。
認識も意識もしているのに反応しても間に合わないーーそんな致命的な攻撃は別の者が対処した。
「イリス様!」
一瞬前までいなかったプラネットが持ち前の瞬発で駆けつけ、イリスを付け狙ったダガーの軌跡を捌いたのだ。
「イリス様、良かったです」
「……感謝します」
恭しく頭を下げるプラネットを見て、槍を携えたイリスは毅然とした態度で物怖じせずに言う。
長く赤みがかかった黄金色の髪を揺らし、人形のように整った顔立ちをした彼女は、紺碧の瞳をまっすぐプラネットに向けてくる。
戦闘の喧騒の中、二人だけ時間が止まってしまったかのように視線が交錯した。
「同じNPC同士、力を合わせていきましょう」
「私達NPCは、マスターに従うまでです。それ以上でもそれ以下でもありません」
ほんわかな笑みを浮かべて言うプラネットを見て、イリスは剣呑の眼差しを返す。
「イリスは相変わらず、他のNPCに対して厳しいな」
「……プラネットさんには感謝しております。ですが、徹様、私は自分の考えを改めるつもりはありません」
徹の気楽な振る舞いに、イリスはプラネットを一瞥し、あくまでも自身の信念を貫き通した。
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