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留菜マナ
留菜マナ

第五百五十一話 決着の時②

公開日時: 2025年1月9日(木) 16:30
文字数:1,003

「……活路を見出(みいだ)せないな」


望は息も絶え絶えに前を向いたが、包囲の一角を切り崩す術は見つからない。


「お兄ちゃん、どうしたらーー」


予想外の出来事を前にして、花音が疑問を口にしようとした瞬間ーー


「……何もしなくていい」


響き渡ったその声に、花音は大きく目を見開いた。


「西村花音。君は自分の持つ力の使い道を分かっていない。持てる力を振るわないのは罪だ」

「ーーっ」


ニコットが花音に向けて、アルビノの鞭を振るおうとしたその時、聞き覚えのある声が割って入ってくる。

鋭く重い音が響き、ニコットの身体が吹き飛ばされた。


「あ……」


その際に、ニコットが持っていたアルビノの鞭が花音の前にぽとりと落ちた。

花音は咄嗟にアルビノの鞭を手に取る。

まるで伸縮自在なように、鞭を振るうことができた。


「ニコット!」


後方に大きく後退したニコットの姿に、『レギオン』のギルドメンバー達は明確な異変を目の当たりにする。

思わぬ奇襲を前にして、ニコットのHPは減少していた。


「なっ!」


突然の闖入者に、シンクロから解放されても、望は心穏やかではいられなかった。

何故ならーー


「私も戦場に出よう」


風とともに翻る、青みがかかった銀髪。

鈴の音のような青年の声。

望達の危機を救ったのは『アルティメット・ハーヴェスト』のギルドマスターだったから。


「……まさか、『アルティメット・ハーヴェスト』のギルドマスターまでがお出ましとは」


賢は表情に苦悶の色を滲ませる。


「せっかくだ、椎音紘。特殊スキルの使い手である君にも協力してもらおうか」

「なら、私達を止めてみるがいい」


微かな高揚が窺える紘のその反応を見て、賢の背筋に冷たいものが走った。


もしかして、一緒に戦ってくれるのかーー。


心強い救援。

望は一拍置いて動揺を抑えると、紘が口にした言葉を改めて、脳内で咀嚼する。


「紘!」

「紘様!」


徹とイリスは表情を綻ばせて、紘の参戦を歓喜の声で迎え入れた。


「みんな!」


思わぬ紘の参戦。

ニコットの攻勢が抑えられた隙に、望は勇太達のもとへ駆け寄った。


「力を貸してほしい。このままじゃ、八方塞がりだ。何とかして突破口を開きたいんだ」

「分かった」


勇太は意思を示すように直言する。

望はさらにこの状況を少しでも早く改善すべく思考を巡らせた。


「美羅を完全に消滅させる方法。『究極のスキル』そのものである美羅を宿しているニコットを倒すしかないと思う」


不可解な空気に侵される中、望は慄然とつぶやいた。

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