兄と妹とVRMMOゲームと

留菜マナ
留菜マナ

第三百四十六話 地面を穿たんとばかりに降り注ぐ⑤

公開日時: 2022年6月17日(金) 16:30
文字数:1,421

「お客様。こちらの冒険ギルドは絶対不可侵のエリアに登録させて頂いています」

「分かっている。ここで、彼らと戦うつもりはない。場所を変えよう」


信也は苦笑して、慌てふためくNPCのギルド員の要望に応える。

自身が所属するギルドや街中にある宿屋などは、絶対不可侵のエリアだ。

街中やフィールド上と違って、安全が保証されている。

オリジナル版では、絶対不可侵のエリアで揉め事を起こした場合、運営から摘発され、アカウント停止、最悪はアカウントそのものを削除されていた。

プロトタイプ版でも一応、適用されているのか、開発者側である信也はあっさりと引き下がった。


「忠告だ。この世界にいるプレイヤーは、君達『キャスケット』と三大高位ギルドだけではない。私のようなソロプレイヤーや、プレイヤー同士でパーティを組んでいる者達もいる」

「……三大高位ギルド以外に、このプロトタイプ版にログインしているプレイヤーか」


意外な局面に、奏良はインターフェースで表示した王都『アルティス』のマップを視野に入れながら模索する。


「私は王都『アルティス』の街道で、君達を待っている」


信也はそう言い残し、その場を去ろうとして肝心なことを告げていないことに気づく。


「では、冒険者ギルドにいる『アルティメット・ハーヴェスト』のギルドメンバー達。『レギオン』と『カーラ』はいつでも戦う準備は万端だ」


微笑とともに決然とした言葉を残して、信也は転送アイテムを掲げるとその場から姿を消した。






信也の来訪は、一瞬にして周囲の空気を硬化させた。

それは、信也が立ち去った後もなお、続いている。


王都『アルティス』の街道が戦場となるかもしれない。


事態の急転を受けて、有は状況を整理してみる。


「徹よ。王都、『アルティス』の街道に出向く前に、出来る限りの戦力を集めてほしい」

「……分かっているよ」


有の申し出に、徹は首肯し、申し訳なさそうにそう告げた。


「だけど、吉乃信也をここで捕らえることは出来なかったな」


信也が居た場所を見据えた徹は表情を曇らせる。


「今回、NPCのギルド員には絶対不可侵のエリアでも戦闘を行えるように伝えておいたはずだ。それなのにNPCのギルド員が止めに入るなんて、美羅の力によるものかもしれない」

「ああ、確かにな」


徹が行き着いた結論に、有は得心いったように頷いた。

美羅の特殊スキルの力の根源へと繋がる話に、奏良はふと座りの悪さを覚える。


「美羅を消滅させる方法。『レギオン』に関わる組織が引き起こしたとされる失踪事件を要に、美羅の力は仮想世界でも現実世界でも脅威を振るっている。『レギオン』と『カーラ』に守られている美羅を止める手段はあるのか?」

「まずは久遠リノアから美羅を解放させる事によって、美羅という『救世の女神』を愛梨のデータの集合体に戻す必要があるな」


予測出来ていた奏良の言及に、徹は訥々と語った。

望は改めて以前、紘が口にした言葉を脳内で咀嚼する。


美羅を世間に知らしめることで、現実世界における美羅の特殊スキルの効果を向上させたーー。


「なら、世間の目から遠ざける事が出来たら、美羅の力は弱まる可能性もあるんだよな」

「なら、世間の目から遠ざける事が出来たら、美羅の力は弱まる可能性もあるのね」


不可解な空気に侵される中、望とリノアは慄然とつぶやいた。

その手段があるのかは分からない。

それでも、この状況を少しでも早く改善すべく思考を巡らせる。


吉乃信也と決着をつける戦いは目前に迫っているのだからーー。

読み終わったら、ポイントを付けましょう!

ツイート