「奏良よ。吉乃信也は随分、奮発したようだな」
「……この数はさすがに気が滅入るな」
有が咳払いをして落ち着いた口調で告げると、奏良は身構えていた銃を下ろす。
「徹よ、この状況でトラップを仕掛けることは可能か?」
「難しいだろうな」
有が生じた疑問に、徹は状況を踏まえて即答する。
「上空からイリス達にトラップを仕掛けてもらう作戦を練っているけれど、罠を仕掛けているのは『レギオン』と『カーラ』も同じだろうからな」
徹はイリス達と連絡を取り合いながら街道の賑わいを視界に収めていた。
「有が『覇炎トラップ』を仕掛けるには防衛陣形を組んでいる『レギオン』と『カーラ』を誘導させる必要がある。一雨ありそうな空気だな」
「有が『覇炎トラップ』を仕掛けるには防衛陣形を組んでいる『レギオン』と『カーラ』を誘導させる必要がある。一雨ありそうな空気ね」
先行していた望とリノアが警戒するように周囲の様子を窺う。
「よし、妹よ。ここで一旦、罠を張って相手の出方を見るぞ!」
「うん」
有の指示に、花音は満面の笑顔で頷いた。
「上空から罠を仕掛けるんだな」
「上空から罠を仕掛けるのね」
「ああ」
周囲を窺っていた望とリノアは意外そうに、奏良に水を向ける。
『レギオン』と『カーラ』の一糸乱れぬ隊列進行は、望達に一種の圧迫感を与えた。
街道に集う敵の多さを前にして、望達の警戒心は高まっていく。
街道を埋め尽くす『レギオン』と『カーラ』の数は半端ではない。
望達にできることは少ない。
だけど、ここで決めなくては何もかも全てが無に帰す。
過去に抱いた想いも。
みんなと紡いだ絆も。
『カーラ』のギルドホームーー熾烈な戦いの最中での賢と徹の会話が蘇ってくる。
『手嶋賢が『星詠みの剣』に付加したのは、スキルの複合。つまり、アイテム生成のスキルと天賦のスキルを使って、武器を無理やり強化させたんだ』
『複数のスキルを合わせて使うことができるのか!』
『多数のプレイヤーさえいれば、それは可能になる』
確信を持ってその結末を受け入れている賢の静かな声が、受け入れがたい事実を突きつけてくる。
そこでようやく、望は複合スキルによる変革の恐ろしさを目の当たりにしたのかもしれない。
アイテム生成のスキル。
それは、様々な道具を作り出す力で、錬金術に近いスキルとして用いられていた。
天賦のスキル。
それは、自身の武器が持つ特性を最大限に生かして、技を放つスキルだ。
この二つのスキルが複合したことによって得た恩恵は、特殊スキルの力が込められた武器にも対抗することができるという想像を絶する結果として導かれた。
あの時の賢の言葉が突き刺さる。
『レギオン』と『カーラ』はあの時のように複合スキルを用いて、防壁の礎(いしずえ)を築いてくるかもしれない。
そうなれば、望達だけの力では対処することができない。
『アルティメット・ハーヴェスト』の力が必要になってくるだろう。
そしてーー
「『レギオン』と『カーラ』の狙いである愛梨の特殊スキルの力か」
「『レギオン』と『カーラ』の狙いである愛梨の特殊スキルの力ね」
望とリノアが毅然と言い放つ。
望の心を占めるのはこの場を挽回するための思考のみ。
吉乃信也との戦いに決着をつけるためにできることを模索していった。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!