「望、リノアよ、回復アイテムだ」
「ああ。有、ありがとうな」
「うん。有、ありがとう」
有から手渡された回復アイテムを呑んだことで、望とリノアのHPは少し回復した。
望とリノアが振り返ると、モンスターは街の手前に伸びる街道を薙ぎ払い、破壊の限りを尽くしている。
「望くんとリノアちゃんに手出しはさせないよ!」
花音は身を翻しながら、鞭を振るい、モンスターと『レギオン』のギルドメンバー達を翻弄する。
だが、それはほんのわずか、モンスター達の動きを鈍らせただけで動きを止めるには至らない。
『元素還元!』
『復元!』
有は花音へと注意を向けた『レギオン』のギルドメンバー達を牽制するように地面に向かって杖を振り下ろしたが、同じスキルのプレイヤーによって崩壊させようとしていた地面を再び、生成されてしまう。
それでも望とリノアが疾走する時間を稼ぐことに成功する。
「望、リノアよ、あとは頼んだぞ!」
「ああ」
「うん」
有の激励に、剣を振りかざした望とリノアは応えた。
美羅の力を発動させないーーそれを行えば、彼らの目的ーー計画の全てが水泡に帰すのだ。
望達が目指す先には信也がいる。
だが、そこに立ち塞がるのは『レギオン』のギルドメンバー達だった。
「さて、蜜風望くん達はどう動いてこの状況をどう覆すのか」
信也もまた、望達を危険だと勘づいている。
この状況で望の前にリノアを転移させられないのは紘と相対しているためだ。
「対処に回りたいのは山々だが……っ、椎音紘が厄介すぎるな」
思考を途切れさせる紘からの淀みなく続く応酬。
信也の表情に浮かんだ苦痛を『レギオン』と『カーラ』のギルドメンバー達は支え続ける。
美羅の新なる力の覚醒による理想の世界の完成を求める『レギオン』と『カーラ』の総攻撃。
対するは美羅の力による理想の世界という狂気が更なる拡大を始める前に、決着をつけたいと願う故の有達『キャスケット』と紘達『アルティメット・ハーヴェスト』による猛反撃。
美羅が生み出した理想の世界。
人の心を蝕む理不尽――それを理想の世界だと銘打っている『レギオン』と『カーラ』。
美羅の力を止める術ーーその実態を探るために、望達は『レギオン』の本拠地、機械都市『グランティア』へ赴く必要がある。
「「一気に駆け抜けてみせる!」」
望とリノアは目の前の『レギオン』のギルドメンバー達を薙ぎ倒す。
そして、信也のいる場所目掛けて疾走した。
「蜜風望、君達の行動が全てを変える」
紘は此度の戦いを上手く有利に進めることができれば、美羅の力を大きく揺るがす事が出来ると見込んでいる。
つまりーー『レギオン』と『カーラ』との決戦の時はそう遠くない。
美羅の在り方を好ましく思うにせよ、思わないにせよ。
彼女の力をこれ以上肥大化させてはいけない事だけは確かなのだから。
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