世界は混迷を極めている。
仮想世界でしか存在していなかった美羅は現実世界という表舞台に姿を現し、ついには救世の女神にまでなっていた。
『レギオン』と『カーラ』が用意した理想の世界という遠大な計画。
一歩間違えば、世界が破綻していてもおかしくない。
そんな情勢の中でも、望達は前を向こうとしていた。
「美羅の特殊スキルは、全ての人々にご加護を与え、一部の者達に神のごとき力ーー『明晰夢』を授ける力か」
「美羅の特殊スキルは、全ての人々にご加護を与え、一部の者達に神のごとき力ーー『明晰夢』を授ける力」
望とリノアは瞬きを繰り返しながら、かなめが語った美羅の特殊スキルの内容を思い出してつぶやいた。
「吉乃信也の『明晰夢』の力でリノアの意識を失わせることができるのか?」
「吉乃信也の『明晰夢』の力で私の意識を失わせることができるの?」
それは無策よりはるかにいいが、信也の『明晰夢』の力は不明瞭だ。
少なくとも接近戦を仕掛けている前衛の望とリノアはかなりの危険を伴うことになりかねない。
しかし、世界に生じる禍根を断つために、そしてこの状況を変えるためには何らかの変化が必要だった。
「君達の賭けに乗ろう」
槍を構えた紘は敢えて有の決断を尊重する。
「手嶋賢と吉乃かなめはこの場所に訪れることはない。何故ならーー」
「賢とかなめなら、恐らくは現実世界にいる。『私は一毅の願いを叶えるために、『明晰夢』の力を使って、密風望と椎音愛梨を捕らえる。賢とかなめはその間、美羅の真なる力を目覚めさせる手段を進めてほしい』とニコットに言付けを頼んでいたからな」
紘の発言を、信也は予測していたように作業じみたため息を吐いた。
「賢とかなめが現実世界の何処にいるのか、勇太くんなら察しがつくかな?」
「リノアが入院している病院か……」
信也の表情を見て、勇太は最悪の予想を確信に変える。
それでも大切な幼なじみへの想いが勇太を突き動かす。
「だったら、何だ!」
勇太は冷めた視線を突き刺すと、そのまま容赦なく追及する。
「『レギオン』と『カーラ』の関係者達がいる病院。こんな狂っている病院からは、絶対にリノアを救い出すからな!」
「残念だが、退院の手続きはもはや、君のーーそして、久遠リノアの家族の一任だけでは決められない」
思いの丈をぶつけられた信也は、その全てを正面から受け止めた上で、あくまでも笑顔を崩さない。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!