「ログアウトしたら、リノアはどうなるんだ?」
「恐らく、また眠りにつくと思う」
「恐らく、また眠りにつくと思うの」
勇太の的確な疑問に、望とリノアは苦悩するように答えた。
「だったら、リノアちゃん、二階のベッドで休ませてからログアウトしないといけないね」
「寝ながら、ログアウトしないといけないんだな」
「寝ながら、ログアウトしないといけないんだね」
花音の戸惑いに、望とリノアは二階へと視線を走らせる。
花音は率先して、二階に上がっていく。
望がベッドに横になると、リノアもまた、同じ動作をした。
「リノア、絶対に元に戻してみせるからな」
周囲へと目を配っていた勇太が、望の不安を端的に言い表す。
「勇太くん、俺達も協力するな」
「勇太くん、私達も協力するね」
「リノアは、張本人だから当たり前だろう」
望とリノアの思慮に、勇太は期待を膨らませる。
「またな」
勇太はそう言い残すと、リノアの両親とともにログアウトした。
「勇太くんのためにも、リノアを元に戻す方法を探さないとな」
「勇太くんのためにも、私を元に戻す方法を探さないと」
望の言葉に、リノアもまた、同じ発言を繰り返した。
そこに彼女の意思など存在しない。
望は、顔に悔しさを張り付ける。
「リノアを元に戻す方法か……」
「私を元に戻す方法……」
言葉も思考も堂々巡りしてしまう。
同じ言を発するリノアの気丈な声が心に突き刺さった。
まるで、『カーラ』のギルドホームでの出来事を想起させるような状況に、望は表情を引きしめる。
「なあ、花音。聞いてほしいことがあるんだ」
「あの、花音。聞いてほしいことがあるの」
「聞いてほしいこと?」
望とリノアの言葉に、花音はきょとんと目を瞬かせる。
「俺は、『レギオン』と『カーラ』を止めたい」
「私は、『レギオン』と『カーラ』を止めたい」
「えっ?」
望とリノアの意外な発言に、花音は少し逡巡してから訊いた。
「美羅がもたらした世界は、他の人達にとって幸せに満ち溢れているかもしれない。理想の世界かもしれない。だけど、やっぱり、俺は以前の世界で生きていきたいんだ」
「美羅がもたらした世界は、他の人達にとって幸せに満ち溢れているかもしれない。理想の世界かもしれない。だけど、やっぱり、私は以前の世界で生きていきたいの」
「望くん、リノアちゃん。私達も、同じ気持ちだよ」
望とリノアの訴えに、花音もまた、自身の想いを口にする。
「ああ、花音。これからもみんな、一緒だからな。だから、俺はみんなを守るために、『レギオン』と『カーラ』を止めたい」
「うん、花音。これからもみんな、一緒だからね。だから、私はみんなを守るために、『レギオン』と『カーラ』を止めたいの」
「……よく分からないけれど、それが望くんの決めたことなんだね。私、望くんを信じている」
望の決心に、花音は胸のつかえが取れたように答える。
「花音、ありがとうな」
「花音、ありがとう」
「うん」
望とリノアが誠意を伝えると、花音は朝の光のような微笑みを浮かべた。
信じているーー。
その言葉には何の根拠もなく、何かの保証には決してなり得ないことを知りながら、花音が口にすると、まるでそれは既に約束された未来の出来事のように感じられた。
望の中で、漲る力が全身を駆け巡る。
何物にも代えがたい花音の笑顔。
その笑顔は、現実世界でも変わることはないだろう。
「そろそろ、ログアウトするか」
「そろそろ、ログアウトするね」
「うん。お兄ちゃん達、もうログアウトしたのかな」
いつもと同じ会話を交わして、望と花音は仮想世界から現実世界へと戻った。
この世界に残るプラネットに、眠りについたリノアを託してーー。
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