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留菜マナ
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第百九十話 澪明のセレネ②

公開日時: 2021年3月27日(土) 16:30
文字数:1,475

「ログアウトしたら、リノアはどうなるんだ?」

「恐らく、また眠りにつくと思う」

「恐らく、また眠りにつくと思うの」


勇太の的確な疑問に、望とリノアは苦悩するように答えた。


「だったら、リノアちゃん、二階のベッドで休ませてからログアウトしないといけないね」

「寝ながら、ログアウトしないといけないんだな」

「寝ながら、ログアウトしないといけないんだね」


花音の戸惑いに、望とリノアは二階へと視線を走らせる。

花音は率先して、二階に上がっていく。

望がベッドに横になると、リノアもまた、同じ動作をした。


「リノア、絶対に元に戻してみせるからな」


周囲へと目を配っていた勇太が、望の不安を端的に言い表す。


「勇太くん、俺達も協力するな」

「勇太くん、私達も協力するね」

「リノアは、張本人だから当たり前だろう」


望とリノアの思慮に、勇太は期待を膨らませる。


「またな」


勇太はそう言い残すと、リノアの両親とともにログアウトした。


「勇太くんのためにも、リノアを元に戻す方法を探さないとな」

「勇太くんのためにも、私を元に戻す方法を探さないと」


望の言葉に、リノアもまた、同じ発言を繰り返した。

そこに彼女の意思など存在しない。

望は、顔に悔しさを張り付ける。


「リノアを元に戻す方法か……」

「私を元に戻す方法……」


言葉も思考も堂々巡りしてしまう。

同じ言を発するリノアの気丈な声が心に突き刺さった。

まるで、『カーラ』のギルドホームでの出来事を想起させるような状況に、望は表情を引きしめる。


「なあ、花音。聞いてほしいことがあるんだ」

「あの、花音。聞いてほしいことがあるの」

「聞いてほしいこと?」


望とリノアの言葉に、花音はきょとんと目を瞬かせる。


「俺は、『レギオン』と『カーラ』を止めたい」

「私は、『レギオン』と『カーラ』を止めたい」

「えっ?」


望とリノアの意外な発言に、花音は少し逡巡してから訊いた。


「美羅がもたらした世界は、他の人達にとって幸せに満ち溢れているかもしれない。理想の世界かもしれない。だけど、やっぱり、俺は以前の世界で生きていきたいんだ」

「美羅がもたらした世界は、他の人達にとって幸せに満ち溢れているかもしれない。理想の世界かもしれない。だけど、やっぱり、私は以前の世界で生きていきたいの」

「望くん、リノアちゃん。私達も、同じ気持ちだよ」


望とリノアの訴えに、花音もまた、自身の想いを口にする。


「ああ、花音。これからもみんな、一緒だからな。だから、俺はみんなを守るために、『レギオン』と『カーラ』を止めたい」

「うん、花音。これからもみんな、一緒だからね。だから、私はみんなを守るために、『レギオン』と『カーラ』を止めたいの」

「……よく分からないけれど、それが望くんの決めたことなんだね。私、望くんを信じている」


望の決心に、花音は胸のつかえが取れたように答える。


「花音、ありがとうな」

「花音、ありがとう」

「うん」


望とリノアが誠意を伝えると、花音は朝の光のような微笑みを浮かべた。


信じているーー。


その言葉には何の根拠もなく、何かの保証には決してなり得ないことを知りながら、花音が口にすると、まるでそれは既に約束された未来の出来事のように感じられた。

望の中で、漲る力が全身を駆け巡る。


何物にも代えがたい花音の笑顔。

その笑顔は、現実世界でも変わることはないだろう。


「そろそろ、ログアウトするか」

「そろそろ、ログアウトするね」

「うん。お兄ちゃん達、もうログアウトしたのかな」


いつもと同じ会話を交わして、望と花音は仮想世界から現実世界へと戻った。


この世界に残るプラネットに、眠りについたリノアを託してーー。

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