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留菜マナ
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第ニ百四十ニ話 そして、その日まで君を愛する⑥

公開日時: 2021年5月18日(火) 16:30
文字数:1,553

「よし、奏良、プラネット、徹、勇太よ。ダンジョンに異常がないか、調べるぞ! 望、リノアよ、俺達が外観調査を行っている間、使い魔に戯れている妹の護衛を頼む。恐らく、妹は使い魔に夢中になって、戦闘を疎かにしかねないからな」

「「分かった」」


杖を手にしたまま、有は周囲に活を入れた。

有の指示の下、奏良達はダンジョンの外観を細心の注意を払いながら調べていく。

しかし、ダンジョンの奥から這い寄ってきたモンスター達が、望達に対して襲い掛かってきた。


「調査をしながら、モンスター達と戦うのは得策ではない。先に、モンスター達を倒してしまうしかないな」


ダンジョンの外観周辺の道筋を見つめていた有は覚悟を決める。


「まずは、ダンジョンの調査を行うための活路を切り開いてほしい」

「ああ」

「うん」

「調べながら、戦うよりはマシか」


有の方針に、それぞれの武器を構えた望とリノアが頷き、奏良は渋い顔で承諾した。


「よーし、一気に行くよ!」


花音は跳躍し、モンスター達へと接近した。


『クロス・リビジョン!』


今まさに望達に襲いかかろうとしていたモンスター達に対して、花音が天賦のスキルで間隙を穿つ。

花音の鞭に搦(から)め取られた瞬間、鞭状に走った麻痺の痺れによって、モンスター達は身動きを封じられた。


「望くん、リノアちゃん、お願い!」

「ああ!」

「うん!」


花音の合図に、跳躍した望とリノアが剣を振るい、モンスター達を木端微塵に打ち砕いた。

だが、さらに三体の影が空中から襲いかかってくるのが見える。


「奏良よ、頼む」

「言われるまでもない」


有の指示に、奏良は弾丸を素早くリロードし、銃を構えた。

発砲音と弾着の爆発音が派手に響き、モンスター達は次々と落ちていく。


「行きます!」


裂帛の咆哮とともに、プラネットは力強く地面を蹴り上げた。


「はあっ!」


気迫の篭ったプラネットの声が響き、迫り来るモンスター達は次々と爆せていく。


「徹よ、モンスターの動きを止めてほしい!」

「ああ」


有の指示に、徹は片手をかざし、精霊を召喚した。


『我が声に従え、ララ!』

「ーーなっ!」

「ーーっ!」


徹の声と同時に、望達の目の前に光輝く精霊が現れる。


「ララ、モンスター達の動きを止めろ!」

「了解!」


金色の光を身に纏った人型の精霊。

妖精達とさほど変わらない体躯の精霊ララは、主である徹の指示に従ってふわりと飛来した。


「道を開けてもらうわよ!」


ララは浮遊したまま、モンスター達の行く手を塞いだ。

モンスター達が一斉に、ララに襲いかかる。


「そんな攻撃、意味ないわよ」


だが、それが放たれるよりも先に、ララは電光石火の早業で光の檻を生成させた。

モンスター達の逃げ道を塞ぐように、四方形の光の壁が具現化する。


「これで、しばらくは動けないよ」


モンスター達の咆哮をよそに、ララは得意げに腰に手を当てた。

ララが封じ込めたモンスター達に対して、勇太は大剣を翻し、跳躍する。


『フェイタル・ドライブ!』


勇太が大きく大剣を振りかぶり、光の刃が波動のようにモンスター達へと襲いかかった。

万雷にも似た轟音が響き渡る。


「これでどうだ!」


迷いのない一閃とともに、勇太の強烈な一撃を受けて、モンスター達は消滅した。


「これで、ダンジョンの調査に集中できそうだな」


襲い掛かってきたモンスター達を全滅させてみせた望達の姿を見て、有は感嘆の吐息を漏らす。

望達は改めて、ダンジョンの調査へと乗り出した。

しかし、『這い寄る水晶帝』にはオリジナル版との違いは見当たらない。


「本当に、何も手がかりはないのか?」


承服できない勇太は、不満そうに周囲を見渡した。

勇太の視界の先では、奏良達がモンスター達と激しい戦闘を繰り広げている。


今回のダンジョンには、何の手がかりもないのだろうか。


ダンジョン内を視界に捉えた勇太の胸に、言いようのない不安が去来していた。


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