「リノア!」
勇太はリノアのもとに駆け寄ると、強引に自分の方に振り向かせる。
そして、両肩をつかんで何度も揺すった。
リノア、大丈夫だからなーーその言葉を飲み込んで、勇太は再度、リノアと向き合う。
「リノア……」
「「ーーっ」」
しかし、勇太の悲痛な声にも、リノアの返事は返ってこない。
望と同じく、困惑した表情を浮かべているだけだ。
「なあ、いつものように、笑ってほしいんだ」
「笑う?」
「笑うの?」
勇太の訴えに、望は戸惑いながらも疑問を口にした。
リノアもまた、不思議そうに同じ動作を繰り返す。
「俺達は、リノアの笑顔が見たいんだ」
「リノアの笑顔……」
「私の笑顔……」
リノアが告げた答えは、勇太が想像していた以上に最悪の代物であった。
目の前にいるのはリノアなのに、まるでどこか得体の知れない相手と対峙しているような気分に襲われた。
望と同じリノアの表情が、どうしようもなくそれを証明する。
それでも、リノアと話している。
リノアが側にいることを実感できた。
「リノア、そのーー」
勇太は寂しげにそう口を開いた後、悩みを振り払うように首を横に振った。
「……いや、無理に笑わなくてもいい。俺は、おまえの幼なじみの柏原勇太。そして、リノアは、久遠リノアだ。それだけは、覚えていてくれないか」
「「勇太くん」」
勇太の決意に、望とリノアは躊躇うように応える。
「今度こそ、絶対にリノアを元に戻してみせる!」
勇太は背負っている大剣を見据えると、改めて有達へと向き合った。
勇太が今、対峙するべきは、眼前のダンジョン調査クエストだ。
そして、賢達への邪念よりも先に、大切な幼なじみを守るという信念。
「俺はこのまま、このクエストを続行したい!」
「はい。『レギオン』と『カーラ』が接触してきたということは、それだけ重要なクエストだと思います」
断定する形で結んだ勇太の申し出に応えるように、プラネットは笑顔で祝福する。
「望、奏良、プラネット、妹よ。このクエストを続けるか。それとも別のクエストを探すか」
「お兄ちゃん、そんなの決まっているよ!」
問いにもならないような有のつぶやきに、花音は人懐っこそうな笑みを浮かべて言った。
「このクエスト以外を選ぶなんて、私達らしくないもん」
「そうだな」
「そうだね」
予測できていた花音の答えに、望とリノアは笑みの隙間から感嘆の吐息を漏らす。
「リノアを救うために、まずはこのクエストを受けるしかないな」
「私を救うために、まずはこのクエストを受けるしかないね」
「うん」
望とリノアの決意の宣言に、花音は意図して笑みを浮かべてみせた。
有達のギルド『キャスケット』。
誰かと共にあるという意識は、追いつめられていてもなお、決して自分達が負けることはないという不屈の確信をかきたてるものだと望は感じた。
盛り上がる望達を背景に、承服できない奏良は素っ気なく答える。
「僕は、他のクエストでも構わない。また、『レギオン』と『カーラ』の待ち伏せを受けて襲われるのは勘弁してほしいからな」
「もう、奏良くん! 愛梨ちゃんのために、リノアちゃんを元に戻す方法探そうよ!」
「……花音。何故、そこで愛梨の名前を出すんだ?」
花音のどこか確かめるような物言いに、奏良は不快そうに顔を歪めた。
「何だ、奏良。勝てない勝負なら、諦めるのか? 確かに、今回の『シャングリ・ラの鍾乳洞』の戦闘では、徹が活躍しているようだったな」
「……活躍」
有が神妙な面持ちで告げると、奏良は不意を突かれたように顔を硬直させる。
その途端、ギルド内に不穏な空気が流れた。
「君は、いつまでここにいるつもりだ?」
「ダンジョンの調査クエストの話し合いが終わるまでだ!」
奏良が非難の眼差しを向けると、徹はきっぱりと異を唱えてみせる。
「今後も、君の出番はない。僕が愛梨を守るからな。ただひたすら、後方で援護してくれ」
「……おまえ、いつも一言多いぞ」
奏良の言及に、徹は恨めしそうに唇を尖らせた。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!