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留菜マナ
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第三百八十ニ話 戦渦で舞う①

公開日時: 2023年2月24日(金) 16:30
文字数:1,053

奏良の掩護射撃を受けた望とリノアが一足飛びに信也へと向かってくる。


「ここに来れば、久遠リノアの動きは封じられる。

それが分かっているはずなのに、彼は何かを仕出かしそうな予感がする。やはり、この戦いの不穏分子は蜜風望くんだな」


自身を倒すことを狙っているのか――それとも『信也に内在する懸念』を顕在化させようとしているのか。

それは未だ分からないが、信也は目の前の紘だけではなく、望達の動向も警戒しておかねばならないと危機感を抱いていた。

信也は望とリノアに視線を向けると、敢えて柔和な笑みを浮かべる。


『蜜風望くん。美羅様が、椎音愛梨さんに会いたがっている。変わってもらえるかな?』

「……俺は変わるつもりはない!」

「……私は変わるつもりはない!」


確信を込めて静かに告げられた信也の誘いは、この上なく望達の結束を高めた。


『残念だ。なら、久遠リノアを転移させて君の動きを封じようか』


望とリノアが駆け出し、信也目掛けて一閃したーーその瞬間だった。


「「ーーっ」」


リノアの位置が移動し、望と対面するかたちへと変えられる。


「奏良……頼む!」

「奏良……お願い!」

「喰らえ!」


望とリノアの呼び掛けと同時に、奏良は距離を取って続けざまに四発の銃弾を放った。

弾は寸分違わず、信也に命中する。

HPを示すゲージは少し減ったものの、いまだに青色のままだ。


「その行動は予測済み――」


信也の言葉が途切れる。

何故ならーー


『フェイタル・トリニティ!』

「……っ」


勇太が跳躍し、信也の不意を突くようなかたちで大技をぶちかましてきたからだ。

勇太の放った天賦のスキルによる波動が、リノアの座標を再度移動させようとした信也を襲う。


「これならどうだ!」

「柏原勇太くん……。『カーラ』の召喚のスキルの使い手達を相手取りながらも、大技を使うMPを残していたか……。君を少し見くびっていたようだ」


不慮の一撃をまともに喰らった信也は苦悶の表情を刻む。

勇太は光を纏った大剣を振り回し、信也だけではなく、周囲にいた『レギオン』のギルドメンバー達ごと吹き飛ばした。

そこで勇太のMPが潰える。

だがーー


「行くぜ!」


勇太はそれでも大剣を振るい、次々と『レギオン』のギルドメンバー達を薙ぎ倒していく。


「よーし、今だよ!」


裂帛の咆哮とともに、花音は力強く地面を蹴り上げた。


『クロス・リビジョン!』


今まさに花音達に襲いかかろうとしていたモンスターに対して、花音が天賦のスキルで間隙を穿つ。

花音の鞭に搦(から)め取られた瞬間、鞭状に走った麻痺の痺れによって、モンスターは身動きを封じられた。

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