「このままでは勝てないな」
『レギオン』のギルドメンバー達を見据えながら、奏良は事実を冷静に告げた。
「奏良くん、奥の手とかないの?」
「あったら、もう使っている。リノアの意識を失わせるか、もしくはこの戦いを指揮している吉乃信也を捕らえる。そのどちらかが上手くいかなくては戦いの趨勢は拮抗したままだろうな」
花音が恐る恐る尋ねると、奏良は自分と周囲に活を入れるように答える。
有は敵の少ない方向に駆け出すと、リノアと向き合っている望に視線を向けた。
特殊スキル。
世界を牛耳る力と謳われ、現実世界をも干渉する力。
そして、全ての世界そのものを改変させることすら可能な、万能の力。
有は紘が語っていた特殊スキルの内容を呼び起こす。
『美羅の器であるリノアは、『レギオン』と『カーラ』の者達にとって決して失うことができないカードだ。リノアが意識を失えば、一時的とは美羅の力は発動しない』
紘の淡々と語った内容、しかし有達には額面以上の重みがあった。
リノアの意識を失わせる。
有は改めて、その意味を脳内で咀嚼する。
美羅が求めているものは特殊スキルの使い手。
『レギオン』と『カーラ』の者達も同様に求めているものは望達、特殊スキルの使い手の力だ。
『レギオン』と『カーラ』の目論見は、愛梨に特殊スキルの力を使わせることによって、美羅の真なる力の発動させることだった。
だが、もしリノアの意識を失わせることができたら、愛梨の特殊スキル、『仮想概念(アポカリウス)を使うことができるかもしれない。
しかし、有達がリノアに波状攻撃を仕掛けても、リノアは信也の意思によって転移させられてしまう。
ならーー
「奏良よ、ならば、吉乃信也にリノアの意識を失わせるように仕向けるしかないな」
有は意思を示すように直言する。
信也の攻撃をリノアに命中させる。
あくまでこれは超常の領域にある美羅の加護を受ける開発者達の一人を捕縛すること。
倒すを確約するものではなく、どれほどの情報を得ることができるかも未知数。
むしろ、信也は何らかの方法で口を割らない可能性もあった。
しかし、それでも開発者の一人を捕らえれば、賢達の動きに乱れが生じるはずだ。
だが、今はその手段が思い至らない。
「望よ、リノアを吉乃信也のもとまで連れてきてほしい」
信也のもとまでの道筋を見つめた有は覚悟を決める。
信也の『明晰夢』の力は、紘の紘の特殊スキル、『強制同調(エーテリオン)』の力によって抑えられている。
故に今ばかりは有は決意だけを口にする。
その想いを必ず結実させることだけを己に誓ってーー。
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