「よし、行くぜ!」
勇太は起死回生の気合を込めて、賢に天賦のスキルの技を発動させる。
『フェイタル・ドライブ!』
勇太が大きく大剣を振りかぶり、光の刃が波動のように賢へと襲いかかった。
万雷にも似た轟音が響き渡る。
「ーーっ!」
迷いのない一閃とともに、勇太の強烈な一撃を受けて、賢は怯んだ。
賢のHPが減少する。
頭に浮かぶ青色のゲージは、瀕死の赤色まで減少していた。
勇太は畳み掛けるように、賢の間合いへと接近する。
「『星詠みの剣』!」
だが、賢が剣を掲げた瞬間、賢の周りに淡い光が纏う。
その瞬間、賢のHPゲージは、あっという間に半分から全快の青色に戻っていた。
「なっ!」
起死回生を込めた技を覆されて、勇太は虚を突かれたように呆然とする。
『星詠みの剣』の光の魔術の付与効果。
それは『完全回復』だった。
「また、完全回復か……」
「……ああ」
驚愕する勇太を尻目に、賢は先程までの動揺を押さえるように一呼吸置いた。
「賢様。信也様から一度、体勢を整えた方が良いのではという伝言が入っております」
「……分かった。残念な結果だが仕方ない」
『レギオン』のギルドメンバーからの報告に、賢は苦悶を口にしながら後退する。
「この場から撤退する」
「はい」
賢の意思に添って、『レギオン』のギルドメンバー達は彼のもとに集結させた。
賢は持っていた転送石を掲げる。
機械都市、『グランティア』の一角。
そこにある、『レギオン』のギルドホームに戻るためにーー。
「ま、待て!」
徹が止める暇もなく、賢達は転送石を使ってその場から姿を消していった。
「何とかなったか……」
賢達が姿を消したことを確認した奏良は、大きく息を吐いた。
奏良はインターフェースを使い、HPが減ったステータスを表示させる。
「わーい! 望くん、リノアちゃん、大勝利!」
「おい、花音!」
「っ……花音!」
これ以上ない満面の笑みを浮かべて、駆け寄ってきた花音が望に抱きついた。
花音の突飛な行動に、望は身動きが取れず、窮地に立たされた気分で息を詰めている。
リノアもまた、望と同じ動作で、戸惑いの色を滲ませていた。
「奏良よ、やったな」
「ああ。『レギオン』が撤退してくれたおかげだ」
有のねぎらいの言葉に、奏良は恐れ入ったように答えた。
高位ギルドの力の片鱗を垣間見たような感覚。
『レギオン』のギルドメンバーの大半を足止めをしていた同じ高位ギルドである『アルティメット・ハーヴェスト』の助力と、特殊スキルの力がなかったら対抗する術はなかっただろう。
「奏良よ、回復アイテムだ」
「ああ、やっとログアウト出来るな」
有から手渡された回復アイテムを呑んだことで、HPが少し回復した奏良は、高位ギルドの底知れない統率力を改めて実感する。
「お兄ちゃん。これから、どうしたらいいのかな?」
「『レギオン』のギルドメンバー達が撤退したとはいえ、体力を消耗しているのには変わりない。それに残りのダンジョンには、特殊スキルの手がかりはないとはいえ、クエストを達成するためには全てを回る必要がある。とにかく、このままギルドに帰還し、ログアウトするしかないな 」
花音の戸惑いに、有は思案するように視線を巡らせる。
美羅の完全な復活を目論む動きも活発な中、今のままでは手が足らない。
今回は難を逃れたが、次はどうなるのか分からない。
有は『アルティメット・ハーヴェスト』のギルドマスターである紘と話し合い、新たな助力を求める必要性を感じていた。
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