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留菜マナ
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第三百十話 暁の誓い①

公開日時: 2021年10月1日(金) 16:30
文字数:1,397

「よし、行くぜ!」


勇太は起死回生の気合を込めて、賢に天賦のスキルの技を発動させる。


『フェイタル・ドライブ!』


勇太が大きく大剣を振りかぶり、光の刃が波動のように賢へと襲いかかった。

万雷にも似た轟音が響き渡る。


「ーーっ!」


迷いのない一閃とともに、勇太の強烈な一撃を受けて、賢は怯んだ。

賢のHPが減少する。

頭に浮かぶ青色のゲージは、瀕死の赤色まで減少していた。

勇太は畳み掛けるように、賢の間合いへと接近する。


「『星詠みの剣』!」


だが、賢が剣を掲げた瞬間、賢の周りに淡い光が纏う。

その瞬間、賢のHPゲージは、あっという間に半分から全快の青色に戻っていた。


「なっ!」


起死回生を込めた技を覆されて、勇太は虚を突かれたように呆然とする。

『星詠みの剣』の光の魔術の付与効果。

それは『完全回復』だった。


「また、完全回復か……」

「……ああ」


驚愕する勇太を尻目に、賢は先程までの動揺を押さえるように一呼吸置いた。


「賢様。信也様から一度、体勢を整えた方が良いのではという伝言が入っております」

「……分かった。残念な結果だが仕方ない」


『レギオン』のギルドメンバーからの報告に、賢は苦悶を口にしながら後退する。


「この場から撤退する」

「はい」


賢の意思に添って、『レギオン』のギルドメンバー達は彼のもとに集結させた。

賢は持っていた転送石を掲げる。

機械都市、『グランティア』の一角。

そこにある、『レギオン』のギルドホームに戻るためにーー。


「ま、待て!」


徹が止める暇もなく、賢達は転送石を使ってその場から姿を消していった。






「何とかなったか……」


賢達が姿を消したことを確認した奏良は、大きく息を吐いた。

奏良はインターフェースを使い、HPが減ったステータスを表示させる。


「わーい! 望くん、リノアちゃん、大勝利!」

「おい、花音!」

「っ……花音!」


これ以上ない満面の笑みを浮かべて、駆け寄ってきた花音が望に抱きついた。

花音の突飛な行動に、望は身動きが取れず、窮地に立たされた気分で息を詰めている。

リノアもまた、望と同じ動作で、戸惑いの色を滲ませていた。


「奏良よ、やったな」

「ああ。『レギオン』が撤退してくれたおかげだ」


有のねぎらいの言葉に、奏良は恐れ入ったように答えた。

高位ギルドの力の片鱗を垣間見たような感覚。

『レギオン』のギルドメンバーの大半を足止めをしていた同じ高位ギルドである『アルティメット・ハーヴェスト』の助力と、特殊スキルの力がなかったら対抗する術はなかっただろう。


「奏良よ、回復アイテムだ」

「ああ、やっとログアウト出来るな」


有から手渡された回復アイテムを呑んだことで、HPが少し回復した奏良は、高位ギルドの底知れない統率力を改めて実感する。


「お兄ちゃん。これから、どうしたらいいのかな?」

「『レギオン』のギルドメンバー達が撤退したとはいえ、体力を消耗しているのには変わりない。それに残りのダンジョンには、特殊スキルの手がかりはないとはいえ、クエストを達成するためには全てを回る必要がある。とにかく、このままギルドに帰還し、ログアウトするしかないな 」


花音の戸惑いに、有は思案するように視線を巡らせる。

美羅の完全な復活を目論む動きも活発な中、今のままでは手が足らない。

今回は難を逃れたが、次はどうなるのか分からない。

有は『アルティメット・ハーヴェスト』のギルドマスターである紘と話し合い、新たな助力を求める必要性を感じていた。

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