機械都市『グランティア』での戦いから数日後。
有の家に集まった望達は、携帯端末を操作して、『創世のアクリア』のプロトタイプ版へとログインする。
オリジナル版と同様に、目の前に広がる金色の麦畑や肌に纏わりつく風と気候も、まるで本物のように感じられた。
だが、有達のギルド『キャスケット』がある、湖畔の街、マスカットの街並みは閉散としていて人気は少ない。
唯一、見かけるのは、NPCである店員の姿だけだった。
「お兄ちゃん。プロトタイプ版にログインしているのは、まだ私達だけなのかな?」
「妹よ。恐らく、『アルティメット・ハーヴェスト』もログインしているはずだ」
花音の戸惑いに、有は思案するように視線を巡らせる。
「まあ、『レギオン』と『カーラ』は、さすがにもうログインはできないだろうな」
奏良は数日前の出来事を思い返して、渋い顔をした。
「だが、『創世のアクリア』のプロトタイプ版を産み出した開発者だ。警戒は怠らない方がいいだろうな」
「ああ、そうだな」
奏良の懸念に、有は推測を確信に変える。
「とにかく、望、奏良、母さん、妹よ。ギルドで情報収集をおこなうぞ!」
「ああ」
「うん」
「そうだね」
「それしか、この状況を打破する手段はなさそうだからな」
有の方針に、望と花音と有の母親が頷き、奏良は渋い顔で承諾する。
目的が定まった望達は早速、ギルドへと足を運ぶ。
「マスター、有様、花音様、奏良様、お待ちしておりました」
「わーい、プラネットちゃん!」
望達がギルドに入ると、プラネットが控えていた。
アンティークな雑貨の数々と、有の母親の火の魔術のスキルで光らせている灯は、ギルド内に幻想的な雰囲気を醸し出している。
プラネットとの会話も束の間、有は今までのことを思案した。
「『レギオン』と『カーラ』の者達が再び、警察に身柄を確保されてから数日経つのか」
美羅が完全に消滅してから瞬く間に、『レギオン』と『カーラ』に関わった者達全ては警察に身柄を確保された。
様々な問題を引き起こした賢達は起訴されている。
『創世のアクリア』の開発会社やその関連会社は操業停止となったままだ。
美羅によって、理想の世界へと変えられた現実世界。
美羅を崇める人々で溢れ返っていた街は、かっての街並みに戻っている。
プロトタイプ版の運営は、『アルティメット・ハーヴェスト』が握っていた。
『アルティメット・ハーヴェスト』は、『レギオン』と『カーラ』が引き起こした様々な問題への対処に回っている。
だが、ゲームアプリを持っていた望達は、今も『創世のアクリア』のプロトタイプ版に気軽にログインすることができた。
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