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留菜マナ
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第三百四十話 此処はサンクチュアリ⑦

公開日時: 2022年5月6日(金) 16:30
文字数:1,227

「相変わらず、すごい人だな」

「相変わらず、すごい人ね」


馬車を降りて冒険者ギルドへと向かった望とリノアは、『アルティメット・ハーヴェスト』のプレイヤー達が往来する通りに沿って歩いていた。

この街を警護する『アルティメット・ハーヴェスト』のプレイヤー達の厳戒態勢が引かれている場所なら、望と愛梨の特殊スキルを狙う襲撃者達にすぐに対応できると判断したからだ。

先頭を歩いていた花音は興味津々な様子で、冒険者ギルドへと視線を走らせた。


「望くん、リノアちゃん! 早く早くー!」

「ああ」

「うん」


望とリノアが駆け寄ると、花音は悪戯っぽく目を細める。

奏良と今後のことで話し合っていた有が、インターフェースで表示した王都『アルティス』のマップを見つめて言った。


「新しいマップによると、王都『アルティス』と同様に冒険者ギルドも少し様変わりしているようだ」


有はマップを消し、改めて周囲に視線を巡らせる。


「ねえ、お兄ちゃん。これから、吉乃信也さんが待っている冒険者ギルドに赴くんだよね?」

「その通りだ、妹よ。まずは吉乃信也が、本当に王都『アルティス』にいるのか、確かめる必要があるからな」


花音の疑問に、有は少し逡巡してから答えた。

その指摘に、花音は信じられないと言わんばかりに両手を広げる。


「吉乃信也さんと戦う事になるかもしれないんだね?」

「まだ、確証はないがな」


花音が興味津々の表情で尋ねると、有はきっぱりと答える。

やがて、中央の大通りを馬車が進んでいく姿を見留めると、花音はずっと思考していた疑問をストレートに言葉に乗せた。


「機械都市『グランティア』は今、どうなっているのかな?」

「新たなマップでは、こちらも様変わりしているようだな」


花音が戸惑ったように訊くと、有は意味ありげに表情を緩ませた。


「他の五大都市か。いつか赴くことができるといいんだけどな」

「他の五大都市ね。いつか赴くことができるといいんだけど」


インターフェースで表示した時刻を確認しながら、望とリノアは顎に手を当てて、真剣な表情で思案する。

望達は早速、冒険者ギルドに立ち寄り、信也を探すことにした。

クエストを受注したり、馬車を手配するためには、基本、自身のギルドか、冒険者ギルドで行う必要がある。


「望、リノア、妹よ。今回のダンジョンの調査クエストを達成すれば、他の五大都市へと赴く足掛かりになるはずだ」

「ああ」

「うん」

「そうだね」


有が事実を如実に語ると、望とリノアと花音は納得したように首肯する。

冒険者ギルド内で見かけるのは、『アルティメット・ハーヴェスト』の者達と、NPCであるギルドの受付達の姿だけだった。

だが、紘の話では信也が待ち構えているという。

そして、信也の伏兵として『レギオン』と『カーラ』に通じた来訪者が現れないとは限らない。


「よし、望、奏良、プラネット、勇太、リノア、妹よ。『アルティメット・ハーヴェスト』の者達の協力を得ながら、吉乃信也を探すぞ」

「うん」


花音は周囲を警戒してから、勇ましく点頭した。

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