『徹様、交戦を繰り広げていました『カーラ』のギルドメンバー達が全て撤退しました。それと同時に通信が再び、可能になりましたので、その際についてご連絡させて頂きました』
「分かった。このまま、索敵ーー周囲の危険の有無の確認を頼むな」
『了解しました』
徹は通信を切り、神妙な面持ちで入口を眺めた。
「もう、普通に開くのかな」
花音は巨大な鉄門の引き手を掴む。
すると力を入れたわけでもないのに、鉄門は蝶番(ちょうつがい)の軋む音を響きかせる。
望達を解放するように、鉄門は外側に開いていった。
地上へと舞い降りたイリスは、迷いのない足取りでダンジョンの外に出た望達のもとへと歩み寄る。
「皆様、ご無事で何よりです」
「ああ、イリス達も無事で良かった」
「うん、イリス達も無事で良かった」
イリスが誠意を伝えてくると、前を見据えた望とリノアは安堵の表情を浮かべる。
イリスは、そう答えた望とリノア達に対して、深く頭を下げた。
「『カーラ』の攻勢に後れを取り、皆様の救助に向かうことが出来ず、大変申し訳ありません」
「「あっ、いや……」」
イリスの丁重な謝罪に、望とリノアは動揺する。
「徹様。私達はこのまま、周辺の索敵を行います。特殊スキルに関する情報を発見次第、ご報告させて頂きます」
「ああ。イリス、頼むな」
「はい」
徹の指示に、イリスは周囲を警戒するように応えた。
イリスは飛翔し、『アルティメット・ハーヴェスト』のギルドメンバー達と一緒に調査を再開する。
「よし、望、奏良、プラネット、徹、勇太、リノア、そして妹よ。ギルドに戻るぞ!」
「うん!」
「まあ、目的は達成したからな」
有の方針に、花音が頷き、奏良は渋い顔で承諾した。
望達が転送石を掲げた有の傍に立つと、地面にうっすらと円の模様が刻まれる。
望達が気づいた時には視界が切り替わり、『キャスケット』のギルドホームの前にいた。
「わーい! マスカットに戻ってきたよ!」
湖畔の街、マスカットに戻ってきていることを確認すると、花音は嬉しそうにはにかんだ。
プラネットは居住まいを正して、真剣な表情で尋ねる。
「マスター。ダンジョン調査のクエストが終わり次第、『レギオン』と『カーラ』の管轄内にあるダンジョンにも注意を向ける必要性がありそうです」
「……あ、ああ。そうだな」
「……う、うん。そうだね」
「……これからも、ダンジョンに赴いたら同じようなことが起こるのかな」
望とリノアが言い繕うのを見て、花音は自らの不可解な点を口にする。
周囲を警戒していた奏良は、心を落ち着けるように話を切り出した。
「『サンクチュアリの天空牢』でも、『シャングリ・ラの鍾乳洞』と同様の奇襲を受けた。そもそも、君達が管轄しているクエストは、本当に安全が保証されているのか?」
「『アルティメット・ハーヴェスト』のメンバー達が提示したクエストの中で、比較的に安全が保証されているものを選んでいる。ただ、プロトタイプ版の運営は、開発者側の『レギオン』と『カーラ』が握っているから、俺達の力じゃ対応出来ない場合があるんだ」
奏良の懸念に、徹は素っ気なく答える。
「運営側の権限。つまり、事前情報や索敵による調査だけでは対応出来ないということか」
「ああ」
有の確信に近い推察に、徹は肯定の意を込めて頷いた。
「これからも、『レギオン』と『カーラ』の人達の奇襲に警戒しないといけないのかな」
運営側の権限を利用して、常に望達の行く先々で待ち構えている。
賢達の魂胆を見抜き、花音は不満そうに唸った。
「そうだな。ダンジョン調査クエストで赴くダンジョンだけじゃなく、他のクエストも危険性は変わりないからな。ただ、これからも、望達の警護をイリス達に任せている。もちろん、ダンジョンなどに赴く際には、俺も同行するけれどな」
「徹くん達は、これからも一緒に来てくれるんだね!」
徹の発言に、花音は両手を広げて歓喜の声を上げた。
有達のギルド『キャスケット』がある、湖畔の街、マスカットの街並み自体は、今朝とさほど変わらない。
NPCである店員が、店内を切り盛りしているだけで、周囲は閉散としていて人気は少ない。
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