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留菜マナ
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第百五十話 追憶のハーバリウム③

公開日時: 2021年2月15日(月) 16:30
文字数:1,501

「あの!」

「勇太くん!」


冒険者ギルドを見回していた望達は突如、かけられた声に振り返った。

望達のもとに駆け寄ってきた勇太は、居住まいを正すと、改めて自己紹介する。


「この間のクエストで、リノアと一緒にいた人達だよな。俺は柏原勇太だ」


勇太の真摯な対応に、望達は表情を緩めて軽く肩をすくめてみせた。


「俺は蜜風望。よろしくな」

「柏原勇太よ。俺は『キャスケット』のギルドマスター、西村有だ」

「私は西村花音。よろしくね」

「岩波奏良だ」

「私は自律型AIを持つNPC、プラネットです」


望達の懇意に触れて、勇太は想いを絞り出すように聞いた。


「頼む! もし、リノアを元に戻す方法を知っているのなら教えてほしい!」

「……勇太くん」


思いの丈をぶつけられた望達は、その全てを正面から受け止める。

望達は互いに顔を見合わせると、今までゲーム内で起こった出来事をかいつまんで説明した。


シンクロは、時間を一致した同時進行であること。

特殊スキルの使い手である望、もしくは愛梨の意識が、美羅と同化したリノアに共鳴して、同じ動作を引き起こさせていること。

美羅と同化したリノアの特殊スキルによって、現実世界は変革させられていること。

そして、彼女が入院している病院で施された医療機材によって、強制的に『創世のアクリア』のプロトタイプ版にログインさせられているという事実。


話が進むにつれ、勇太の表情が深刻さを増していく。

望達が全てを話し終えた後、勇太は辛辣そうな表情を浮かべていた。


「……リノアは『レギオン』から脱退した今も、あいつらの手の内にあるんだな」


一瞬の静寂の後、勇太は感想をそのまま口に出した。

その一言一句が胸に突き刺さるようだった。

改めて、勇太も、自分の知っていることを望達に伝える。


「現実世界、仮想世界、どちらにしても、望が側にいないとリノアは目覚めないのか?」

「愛梨が側にいる場合でも恐らく、リノアは目覚めるはずだ」


勇太の疑問に、望は真剣な眼差しで捕捉する。

その言葉を聞いて、勇太は自身の希望を口にした。


「リノアを元に戻す方法はないのか?」

「現実世界を元の状態に戻すためには、美羅の特殊スキルの力を止める必要がある。クエストを受ければ、リノアを元に戻す方法が見つかるという確証はないが、こればかりは行ってみないと分からないからな」


そんな彼の意を汲むように、有は自身の考えを纏める。


「……そうなんだな」


有の誠意に、勇太は目を伏せ、頭を下げた。


「だったら、リノアを元に戻す方法を探すだけだ!」

「……ああ、そうだな」


勇太の即座の切り返しに、望は確かな想いを抱いて首肯する。


「頼む! 俺もーーいや、俺達のパーティも協力させてほしい! リノアを救う方法は、望達と一緒に探した方が見つかるような気がするんだ!」

「ああ。勇太くん、よろしくな」

「うん、よろしくね」


勇太の懇願に、望と花音は嬉しそうに承諾した。


「ただ、ギルドに加入するのかは考えさせてほしい。おじさんとおばさんの意見も聞いておきたいんだ」

「そうなんだな」


勇太の提示してきた条件に、望は納得したように頷いてみせる。


「よし、望、奏良、プラネット、妹よ。このまま、リノアを元に戻すきっかけとなるクエストを探すぞ!」

「有。君は人使いが荒い上に、全く効率的ではない。そもそも、『アルティメット・ハーヴェスト』が提示してきたクエストの中に、彼女を元に戻す方法があるとは限らない」


有の意思表明に、奏良は懐疑的である。

だが、それでもこの状況を打破するためには、それしかないと奏良は悟った。


「たとえ、それでも、今はクエストを受ける方法しか思いつかないよな」


その言葉を皮切りに、望は沈着に現状を分析するのだった。


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