兄と妹とVRMMOゲームと

留菜マナ
留菜マナ

第十八話 その先の未来⑥

公開日時: 2020年11月10日(火) 16:30
文字数:2,408

望達が遺跡内部に入ってから一時間、ようやく踏み込んだ最奥部。

綺麗に磨かれた大理石の壁の至るところに、深い亀裂が穿たれている。

堅牢に遺跡を支える柱は、ある物は崩れ落ち、ある物は倒れ、今でも遺跡上部を支えているものでも無傷で済んでいるものはほとんどない。

まるで小型の台風が、遺跡最奥部内を蹂躙しつくしたかのような惨状だった。


「ここにボスがいるのか?」

「望くん、お兄ちゃん達の援護、頑張ろうね」


剣を構えた望が肩をすくめて、鞭を地面に叩いた花音は喜色満面に張り切る。


「高位ギルドしか倒せていないボスか。情報も曖昧だし、厄介だな」


インターフェースで表示させた要領を得ない遺跡攻略情報に、奏良は不愉快そうに肩を落とす。


「この荒れ模様、ここのボスは難敵だな」


その受け入れがたい惨状を前に、有は杖を強く握りしめて露骨に眉をひそめる。

その時、突然、遺跡最奥部内が振動した。

どこからか、地鳴りのようなものが聞こえる。

最奥部の層を、鬼火が宙を漂う。

やがて、それらが一ヶ所に積み重なり、形を成していく。


「ーーって、わっ! お兄ちゃん、ボスが出たよ!」


目の前に現れた巨大なモンスターに、花音が怯えたように有の背後に隠れる。

どくろのような驚くほど大きな頭部には、血のように真っ赤な目が不気味な光を放っていた。

大きなどくろの頭部に、白骨で肉体を構成した巨大で歪な体躯を持つスケルトン。

それが、カリリア遺跡に潜むボスモンスターの全貌だった。

モンスターの巨大さ、醜悪な形状、何より全身から醸し出している凶悪な雰囲気に、望達は圧倒され、言葉にできない恐れを感じる。


「ボスモンスターは、スケルトンの変異体か」


望はインターフェースを操作して、ボスモンスターに付随した情報を目にして言った。


「望、奏良、妹よ、後戻りはできない。全力で葬るぞ!」

「ああ」

「うん」

「逃げられそうもないからな」


有の指示に、望と花音が頷き、奏良は渋い顔で承諾した。


「ーーみんな、攻撃が来るぞ!」


望の叫びと同時に、有達は一斉に散開した。

飛び込んできたボスモンスターの拳が、地面に突き刺さる。

砕かれた床の破片が、壁まで吹き飛んだ。

拳がまともに当たれば、死亡。

砕けた破片に当たっても危険。

ボスモンスターは一撃で、望達をゲームオーバーにするほどの力を備えていた。

ゲーム内でゲームオーバーになったとしても、強制的にログアウトされるだけだ。

データは初期化されてしまうが、再度、プレイすることができる。

だが、今までみんなで培ってきたバトルと経験が全て無駄になってしまう。

望達にとって明らかに分相応な戦いだが、このボスモンスターを倒せば、転送アイテムを使って街などへの移動が楽になる。

危険な賭けだったが、望達は敢えてボスモンスターを攻略するという勝負に出た。

ボスモンスターが魔力を放出すると、望達に向かってマグマのような灼熱が襲いかかる。


「くっ……!」


混沌とした炎舞を、望達はかろうじて避けた。


「わっ! これじゃ、前に行けないよ!」


即座に鞭による攻撃で怯ませようとしていた花音は、目の前に現れた炎の壁に反撃の手を止める。


『エアリアル・アロー!』


奏良が唱えると、無数の風の矢が一斉にボスモンスターへと襲いかかった。

HPを示すゲージは少し減ったものの、青色のままだ。


「はあっ!」


跳躍した望の剣が、ボスモンスターに突き刺さる。

しかし、物理攻撃が効かないため、ほんのわずかほどもHPは減らない。

恐らく、今回の遺跡攻略の報酬である『伝説の武器』なら、魔術による付与効果が見込めるため、ボスモンスターに一撃を加えることができただろう。

だが、そのような武器は、望達は持ち合わせていなかった。

ただ、別のかたちで望の努力は実った。


『ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!』


ボスモンスターは方向転換をして、ターゲットを望に絞ったのだ。


『元素還元!』


有は、望に注意を向けたボスモンスターの隙をついて、炎の壁に向かって杖を振り下ろした。

杖の先端の宝玉が、蛍火のようなほの明るい光を撒き散らし、炎の壁は崩れ落ちるように消滅する。


「お兄ちゃん、ありがとう! よーし、一気に行くよ!」


花音は跳躍し、ボスモンスターへと接近した。


『クロス・レガシィア!』


今まさに望に襲いかかろうとしていたボスモンスターに対して、花音が天賦のスキルで間隙を穿つ。

花音の鞭によって、宙釣りになったボスモンスターは凄まじい勢いで地面へと叩き付けられた。

さらに追い打ちとばかりに、花音は鞭を振るい、何度も打ち据えたことで、ボスモンスターの頭は陥没する。

だが、物理攻撃が効かないため、ほんのわずかほどもHPは減らない。

しかし、頭が陥没したため、ボスモンスターはのたうちまわって足掻く。


「攻撃は効いているはずなのに、ダメージがないのって反則だよ!」


痛みに苦しむボスモンスターの様子とは裏腹に、実際にはHPは全く減らなかったという違和感のある事実。

それを間近で目撃した花音は、不満そうに頬を膨らませてみせる。


『ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!』

『エアリアル・アロー!』


怒りに吠えるボスモンスターに対して、奏良は再び、風の魔術を放つ。

HPを示すゲージは少し減ったものの、まだ青色のままだ。


「有、どうする?」


ボスモンスターへの攻撃を繰り出しながら、望は問う。


「実際に効果があるのは、僕の魔術だけだ。このままでは勝てないな」

「ねえ、お兄ちゃんの持っているアイテムで、何とかならないのかな?」


奏良の鋭い指摘に、花音は踊るように身を回し、鞭を振るいながら有を顧みた。


「残念だが、妹よ。俺が先程、作成したアイテムは、全て回復アイテムだ」

「そうなんだ……」


有の率直な言葉に、花音はがっかりしたように肩を落とす。


「みんな、来るぞ!」

『ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!』


望達を見据えたボスモンスターは、狙い誤つこともなく、望達めがけて破壊の光を放った。


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