「くっ! きりがないな!」
「ーーっ! きりがないね!」
望とリノアが剣を一閃すると、数体のケルベロスが床に伏す。
標的を切り替え、望とリノアは剣を構え直した。
「お兄ちゃん、まだ追ってくるよ!」
「『モンスター避けのお香』が効かないモンスター達は厄介だ。何とかしないといけないな」
花音が鞭でケルベロス達を凪ぎ払おうとしても、ケルベロス達は彼女の行動を読んだように即座に避ける。
有の解釈に、花音は興味津々な様子でインターフェースを表示させて、城のルートを探索している徹をじっと眺めた。
「徹くん、最深部の牢までどのくらいなのかな?」
「まだ、先だな」
「そうなんだね」
徹の答えに、花音は肩を落として落胆する。
床や壁は自らが発光しているかの如く白く、中央にはレッドカーペットが敷いてある。
中もまた、牢獄とは似ても似つかぬ内装だった。
「妹よ。ひとまず、この辺りの外観の調査をするぞ」
「うん」
有の指示に、花音が通路を見渡しながら答えた。
しかし、その瞬間ーー突如、ロビーの床が消える。
「「ーーなっ!?」」
望達は驚く暇もなく、重力に従ってまっ逆さまに落ちていった。
「「ーーっ」」
少しずつ意識が持ち上げられていく感覚。
「の、望くん!」
望とリノアの目が覚めたその時、花音の掠れた声が聞こえた。
「「……花音?」」
「望くん、リノアちゃん、気がついたんだね!」
意識が覚醒する微かな酩酊感は、思いもよらず近くからかけられた花音の声によって一瞬で打ち消される。
先程まで、ロビーにいたはずなのに、望達はいつの間にか薄暗い部屋の中にいた。
「「ここは?」」
「……分からないの。ただ、お兄ちゃん達とは離ればなれになったみたいだよ」
目覚めた望とリノアは、顔を覗き込むようにして身を乗り出している花音の近さに思わず、瞬きした。
望とリノアは身体を起こして一度、ため息を吐くと、安堵の表情を浮かべている花音に尋ねる。
「有達はいないのか?」
「有達はいないの?」
「ああ。ここには、俺達だけみたいだ」
望とリノアの疑問に、勇太が代わりに答える。
望とリノア、花音と勇太の四人だけで、徹や他のギルドメンバー達の姿は見当たらない。
「みんな、大丈夫かな……」
花音の口から、途方にくれたようにため息が漏れる。
その時、凛とした声が室内に響き渡った。
『ようこそ、『キャスケット』の諸君』
「「なっ!」」
信也の宣言に、望達は周囲を警戒する。
『心配しなくても、ここに居るのは君達だけだ』
「ーーっ」
信也は事実を如実に語ると、望の隣に立っているリノアを窺い見る。
『私は離れた場所から、君達と話しているからな。他のメンバー達も無事ーー』
「望、惑わされるなよ!」
信也の声を遮ったのは、暗闇の奥から姿を現した徹だった。
徹は望達を護るようにして立ち塞がると、剣呑の眼差しを込めて告げる。
「イリス達が事前調査を行った際には、こんな罠が仕掛けられているという報告はなかった。そして、ダンジョンの危険の有無は徹底的に行っている。抜かりはないはずだ」
『その通りだ。だが、プロトタイプ版の運営は、開発者側の私達が握っているからな。その時点で罠が無くとも、君達が訪れた瞬間に発生させる事が出来る』
「なっ!」
信也が語った真実に、勇太は虚を突かれたように目を瞬かせてしまう。
疑問が氷解すると同時に戦慄させられた。
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