「くっ! きりがないな!」
望が剣を一閃すると、数体のケルベロスが床に伏す。
標的を切り替え、望は剣を構え直した。
「お兄ちゃん、まだ追ってくるよ!」
「『モンスター避けのお香』が効かないモンスター達は厄介だ。何とかしないといけないな」
花音が鞭でケルベロス達を凪ぎ払おうとしても、ケルベロス達は彼女の行動を読んだように即座に避ける。
有の注釈に、花音は途方にくれたように通路の奥をじっと眺めた。
「この塔、先が見えないし、複雑だよ。もう、へとへと~」
「花音様、もう少しで階段があります。そこで一度、休憩しましょう」
「うん。プラネットちゃん、ありがとう」
プラネットの気遣いに、花音はぱあっと顔を輝かせる。
望達が先を進むと、プラネットが指摘したとおり、上の層に上がるための階段が見えてきた。
石造りの殺風景な階段は、葛折(つづらおり)になっており、モンスターの姿は見受けられない。
「よし、妹よ。ここで一旦、休憩するぞ!」
「うん」
有の指示に、花音は満面の笑顔で頷いた。
「ここは、モンスターが出てこないエリアみたいだな」
「ああ」
周囲を窺っていた望は意外そうに、奏良に水を向ける。
長い階段にはモンスターが出ないため、望達の警戒心も薄かった。
「まだ、第一層か。攻略情報が見れないと何層まであるのか、分からないな」
「先は長そうだな」
奏良の思慮に、望は自分と周囲に活を入れるように答える。
奏良は風の魔術を使い、新たな弾に魔力を込めていった。
弾の外殻が次々と変色していく。
その様子を眺めていた花音が、興味津々な様子で尋ねた。
「その、スキル。また、私の鞭に使えないかな?」
「恐らく、使えるだろうな」
「わーい! 風の魔術による付与があるなら、すごい連携攻撃が出来そうだよ!」
曖昧に言葉を並べる奏良をよそに、花音はぱあっと顔を輝かせる。
「ねえ、望くん。あの時のように、蒼の剣に特殊スキルの力を込められないかな?」
「試してみるか。ーー『魂分配(ソウル・シェア)』!」
花音の疑問に応えるように、望は自身のスキルを口にする。
だが、何も起こらない。
状況がいまいち呑み込めず、望は苦々しい顔で眉をひそめた。
「変化なしか」
「そうなんだね」
赤みがかかった髪を揺らした花音が、顔を俯かせて声を震わせる。
すると、望はそんな彼女の気持ちを汲み取ったのか、頬を撫でながら照れくさそうにぽつりとつぶやいた。
「花音。椎音紘の話だと、俺の想いに愛梨が応えた場合、愛梨と入れ替わるみたいなんだ。そして逆に、愛梨の想いに俺が応えた場合、蒼の剣が力を増すことになる」
「……望くんの想いと愛梨ちゃんの想い?」
望の説明を聞いて、花音は不思議そうに首を傾げる。
望は一呼吸置いて、静かに蒼の剣を構えた。
みんなを守る力がほしいーー。
それは、望自身のスキルを使えば叶うと信じている。
望は目を閉じて、愛梨の想いに応えようとした。
愛梨の想いに応える術はないのかもしれない。
今、この場で、特殊スキルを使うことができるとは限らない。
それでも、望は諦めなかった。
『……みんなの力になりたい』
不意に愛梨の声が聞こえた。
それは望を介し、望の意味が付与された愛梨の想い。
「ああ、そうだな。俺はーーいや、俺達は諦めない!」
顔を上げた望は、胸に灯った炎を大きく吹き上がらせた。
望は前を見据えて、この世界で、たった一つだけの自身のスキルを口にする。
『魂分配(ソウル・シェア)!』
そのスキルを使うと同時に、蒼の剣からまばゆい光が収束する。
蒼の剣からは、かってないほどの力が溢れていた。
望が蒼の剣を掲げると、さらなる輝きを発する。
「望くん、すごーい!」
「上手く使いこなせるかは分からないけれどな」
花音の言い分に、望は少し逡巡してから言った。
その指摘に、花音は信じられないと言わんばかりに両手を広げる。
「なら、逆に、望くんの想いに愛梨ちゃんが応えたら、今度は望くんが愛梨ちゃんと入れ替わるんだね」
「ああ」
花音の咄嗟の疑問に、望は戸惑いながらも答えた。
「わーい! これからは、望くんと愛梨ちゃん、どちらにも会えるよ!」
「妹よ。望の特殊スキルは、片方の効果しか生じないと思うぞ」
喜色満面で喜び勇んだ妹の姿を見て、有は呆れたように指摘したのだった。
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