「近くにいるのか?」
徹は警戒するように声を潜める。
しかし、紘の心中には徹が感じたものとは全く異なる緊張が走っていた。
「ああ。今も、私達を見張っている」
紘が発した発露は相手の出方を確かめるような物言いだった。
「なっ……」
「既に尾行されていたのか……」
鋭く声を飛ばした徹と奏良は急ぎ周囲を見回す。そして、木々の隙間から愛梨の様子を窺っている者達の存在に気づいた。
「椎音愛梨をこちらに渡してもらおうか?」
「そうはさせるかよ!」
「愛梨を守ることが僕の役目だ!」
果たして『レギオン』と『カーラ』と思わしき者達は即座に愛梨のもとに向かおうとしたが、その行く手を徹と奏良を始めとした愛梨の護衛を務めていた『アルティメット・ハーヴェスト』の者達によって阻まれる。
「愛梨のお兄さん、心配しないで下さい。愛梨は、私が絶対に守りますから」
「小鳥……」
さらに矢面(やおもて)に立った小鳥が愛梨の身を護る。
「ちっ……どうする?」
多勢に無勢。
相手の人数が多すぎて、このままでは泥沼化必至だ。
最悪、捕らえられ、身元がばれてしまう状況に陥ってしまうだろう。
だがーー。
「心配ない。その反応は予想済みだ」
「なっ!」
鋭く声を飛ばした徹は、彼らのもとに駆けつける存在に気づいた。
恐らく、全員が『レギオン』と『カーラ』の者達だろう。
このまま、ここで戦うのはまずいなーー。
徹の頭の中で警鐘が鳴る。
「向こうも随分、焦っているみたいだな」
「とはいえ、このままでは押し切られてしまうかもしれない」
周囲に視線を巡らせた徹と奏良の顔には、はっきりと絶望の色が浮かんでいた。
「どうしたらーー」
徹がさらに疑問を口にしようとした瞬間ーー
「……何もしなくていいぞ」
響き渡ったその声に、徹達は大きく目を見開いた。
「よーし、一気に行くよ!」
有のその声を合図に、身を潜めていた花音は飛び出した。
「愛梨ちゃん、小鳥ちゃん、行くよ!」
「うん」
「はい」
花音は愛梨と小鳥の手を取り、安全な場所まで誘導する。
「愛梨ちゃん、もう大丈夫だよ」
「花音」
「一緒に頑張ろう」
「……うん」
花音は小鳥と一緒に、愛梨を護るために身を呈して立ち塞がった。
とはいえ、ここは多くの人達が行き交う通学路。
その状況で戦い、この場から脱出するのは骨が折れるだろう。
徹が戦況を見計らっていると、青年は柔和な笑みを浮かべて進み出た。
「私達の邪魔をしないでもらおうか」
「なら、そもそも騎士様が愛梨を狙って、不意討ちなんてするなよな」
「君達に無礼を働いたことは謝罪しよう」
徹の訴えに、青年はーー賢はあっさりと自分の非を認めた。
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