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留菜マナ
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第五百十一話 たった一つの誓い②

公開日時: 2024年9月6日(金) 16:30
文字数:1,056

「近くにいるのか?」


徹は警戒するように声を潜める。

しかし、紘の心中には徹が感じたものとは全く異なる緊張が走っていた。


「ああ。今も、私達を見張っている」


紘が発した発露は相手の出方を確かめるような物言いだった。


「なっ……」

「既に尾行されていたのか……」


鋭く声を飛ばした徹と奏良は急ぎ周囲を見回す。そして、木々の隙間から愛梨の様子を窺っている者達の存在に気づいた。


「椎音愛梨をこちらに渡してもらおうか?」

「そうはさせるかよ!」

「愛梨を守ることが僕の役目だ!」


果たして『レギオン』と『カーラ』と思わしき者達は即座に愛梨のもとに向かおうとしたが、その行く手を徹と奏良を始めとした愛梨の護衛を務めていた『アルティメット・ハーヴェスト』の者達によって阻まれる。


「愛梨のお兄さん、心配しないで下さい。愛梨は、私が絶対に守りますから」

「小鳥……」


さらに矢面(やおもて)に立った小鳥が愛梨の身を護る。


「ちっ……どうする?」


多勢に無勢。

相手の人数が多すぎて、このままでは泥沼化必至だ。

最悪、捕らえられ、身元がばれてしまう状況に陥ってしまうだろう。

だがーー。


「心配ない。その反応は予想済みだ」

「なっ!」


鋭く声を飛ばした徹は、彼らのもとに駆けつける存在に気づいた。

恐らく、全員が『レギオン』と『カーラ』の者達だろう。


このまま、ここで戦うのはまずいなーー。


徹の頭の中で警鐘が鳴る。


「向こうも随分、焦っているみたいだな」

「とはいえ、このままでは押し切られてしまうかもしれない」


周囲に視線を巡らせた徹と奏良の顔には、はっきりと絶望の色が浮かんでいた。


「どうしたらーー」


徹がさらに疑問を口にしようとした瞬間ーー


「……何もしなくていいぞ」


響き渡ったその声に、徹達は大きく目を見開いた。


「よーし、一気に行くよ!」


有のその声を合図に、身を潜めていた花音は飛び出した。


「愛梨ちゃん、小鳥ちゃん、行くよ!」

「うん」

「はい」


花音は愛梨と小鳥の手を取り、安全な場所まで誘導する。


「愛梨ちゃん、もう大丈夫だよ」

「花音」

「一緒に頑張ろう」

「……うん」


花音は小鳥と一緒に、愛梨を護るために身を呈して立ち塞がった。

とはいえ、ここは多くの人達が行き交う通学路。

その状況で戦い、この場から脱出するのは骨が折れるだろう。

徹が戦況を見計らっていると、青年は柔和な笑みを浮かべて進み出た。


「私達の邪魔をしないでもらおうか」

「なら、そもそも騎士様が愛梨を狙って、不意討ちなんてするなよな」

「君達に無礼を働いたことは謝罪しよう」


徹の訴えに、青年はーー賢はあっさりと自分の非を認めた。

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