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留菜マナ
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第四百五十九話 死者殺しの魔術士⑥

公開日時: 2024年3月8日(金) 16:30
文字数:1,082

「ベヒーモス、いつの間に現れたんだ!」

「ベヒーモス、いつの間に現れたの!」


望とリノアは、徹の背後から突如、現れたベヒーモスの群れを見て驚愕する。


「ベヒーモス……! 全く気配を感じられなかった……」


不可解なモンスターの出現に、後ずさった勇太は困惑したように驚きの表情を浮かべた。

その勇太の後方に、新たなベヒーモスが現出する。


「マスター。さらに、ベヒーモスが複数、出現するのを感知しました」

「『カーラ』が、新たに喚んだモンスターか。前と同じ戦法を取られたというわけか。ここから逃げるのは不可能だな」


プラネットの警告に、奏良は不満そうに前方から視線を逸らした。


「どうなっているんだ?」

「どうなっているの?」

「予め、ベヒーモスの群れに気配遮断が施されていたのかもな」


望とリノアの疑問に応えるように、徹は考え込む仕草をした。


「かなめ様、ご命令を!」

「賢様は、私達に約束してくれました。この戦場での……女神様のーー美羅様のご加護を」


『レギオン』と『カーラ』のギルドメンバー達の剣幕をよそに、前に進み出たかなめは静かな声音で告げる。


「ならば、私達はそれに報いる限りです」


かなめは子守歌のように言葉を紡ぐと、自身の魔術のスキルを発動させた。


『我が愛しき子よ』


かなめとベヒーモス達の周りに、魔方陣のような光が浮かぶ。


『我が敵を滅ぼしなさい』


かなめが神々しくそう唱えると、光に包まれたベヒーモス達は忠誠を誓うように頭を垂れた。

やがて、かなめの光の魔術のスキルによって、新たな力を得たベヒーモス達は、相対する光龍を睥睨した。

先程、光龍から受けたダメージなどなかったように佇むベヒーモス達を見据えて、徹は苦々しく唇を噛みしめる。


「……『再生能力』を付与させたんだな」


かなめの専売特許とともいうべきの光の魔術の恐ろしさ。

事態の急転を受けて、徹は状況を整理してみる。


少なくとも陽動作戦は成功した。

だが、いつから潜入に気づかれていたのかは把握できないが、既に吉乃かなめは俺達がこの場に来ることを事前に知っていた。

その上で、この部屋に招き入れたという事実。


何かを企んでいるんだろうなーー。


こちらの心境を、相手側に悟られるわけにはいかない。

徹は冷静を装って、望達の戦局を視認する。


「ベヒーモス達に光の加護を付けられると厄介だな」


かなめが光の加護を与えたことへの特異性を察して、徹は忌々しそうに表情を歪める。

高位ギルド『カーラ』は、召喚のスキルの使い手に優れていた。

徹のように複数、召喚の契約を交わせる者はいなかったが、それでも多数の召喚のスキルの使い手がいれば、それと同様に行使し、補うことができる。

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