「ベヒーモス、いつの間に現れたんだ!」
「ベヒーモス、いつの間に現れたの!」
望とリノアは、徹の背後から突如、現れたベヒーモスの群れを見て驚愕する。
「ベヒーモス……! 全く気配を感じられなかった……」
不可解なモンスターの出現に、後ずさった勇太は困惑したように驚きの表情を浮かべた。
その勇太の後方に、新たなベヒーモスが現出する。
「マスター。さらに、ベヒーモスが複数、出現するのを感知しました」
「『カーラ』が、新たに喚んだモンスターか。前と同じ戦法を取られたというわけか。ここから逃げるのは不可能だな」
プラネットの警告に、奏良は不満そうに前方から視線を逸らした。
「どうなっているんだ?」
「どうなっているの?」
「予め、ベヒーモスの群れに気配遮断が施されていたのかもな」
望とリノアの疑問に応えるように、徹は考え込む仕草をした。
「かなめ様、ご命令を!」
「賢様は、私達に約束してくれました。この戦場での……女神様のーー美羅様のご加護を」
『レギオン』と『カーラ』のギルドメンバー達の剣幕をよそに、前に進み出たかなめは静かな声音で告げる。
「ならば、私達はそれに報いる限りです」
かなめは子守歌のように言葉を紡ぐと、自身の魔術のスキルを発動させた。
『我が愛しき子よ』
かなめとベヒーモス達の周りに、魔方陣のような光が浮かぶ。
『我が敵を滅ぼしなさい』
かなめが神々しくそう唱えると、光に包まれたベヒーモス達は忠誠を誓うように頭を垂れた。
やがて、かなめの光の魔術のスキルによって、新たな力を得たベヒーモス達は、相対する光龍を睥睨した。
先程、光龍から受けたダメージなどなかったように佇むベヒーモス達を見据えて、徹は苦々しく唇を噛みしめる。
「……『再生能力』を付与させたんだな」
かなめの専売特許とともいうべきの光の魔術の恐ろしさ。
事態の急転を受けて、徹は状況を整理してみる。
少なくとも陽動作戦は成功した。
だが、いつから潜入に気づかれていたのかは把握できないが、既に吉乃かなめは俺達がこの場に来ることを事前に知っていた。
その上で、この部屋に招き入れたという事実。
何かを企んでいるんだろうなーー。
こちらの心境を、相手側に悟られるわけにはいかない。
徹は冷静を装って、望達の戦局を視認する。
「ベヒーモス達に光の加護を付けられると厄介だな」
かなめが光の加護を与えたことへの特異性を察して、徹は忌々しそうに表情を歪める。
高位ギルド『カーラ』は、召喚のスキルの使い手に優れていた。
徹のように複数、召喚の契約を交わせる者はいなかったが、それでも多数の召喚のスキルの使い手がいれば、それと同様に行使し、補うことができる。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!