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留菜マナ
留菜マナ

第五十二話 あの日、あの瞬間⑤

公開日時: 2020年11月27日(金) 16:30
文字数:1,079

「なっ!」


鋭く声を飛ばした望は、森の奥から次々と現れるプレイヤー達の存在に気づいた。

全員が騎士の如き装備を身に纏い、それぞれの武器を望達に突きつけてくる。

ニコットを先頭に並んでいることから、恐らく、全員が『レギオン』の一員なのだろう。

相手は、騎士団に等しい。

それらを相手に戦い、この森から脱出するのは骨が折れるだろう。

しかし、敵はそれだけではなかった。


「蜜風望、いい加減、諦めろ! 『レギオン』は、特殊スキルの力を世界の安寧のために使うだけだ!」


さらに、森の奥から『レギオン』に勝るとも劣らない大人数のプレイヤー達が現れた。

全員が白いフードを身につけ、それぞれの武器を望達に突きつけてくる。


「『カーラ』」


ニコットが淡々と口にする。

高位ギルドのひとつの名前を。


「どうして、『レギオン』と『カーラ』が協力し合っているんだ?」


電磁波の支配から解放された望は目を丸くし、驚きの表情を浮かべる。


「まさか、高位ギルド同士が手を結んだのか?」

「それは違う」


奏良の驚愕を、ニコットは首を横に振って否定した。


「『カーラ』は元々、『レギオン』の傘下」


その想定外の発言に、有の思考に確かな疑念がよぎる。


「つまり、ニコットよ。『カーラ』は、『レギオン』の一部だったというわけだな」

「そう思ってもらっていい」


有が転送アイテムを使うタイミングを見計らっていると、数本のダガーを構えたニコットは肯定する。

望達も遅れて、それぞれの武器を構えた。

高位ギルドが、上位ギルドを傘下に置いている。

決して、前例がないわけではない。

『カーラ』は元々、公式リニューアル前までは上位ギルドだったからだ。


「活路を見出(みいだ)せないな」


望は剣を鞘から抜いたが、包囲の一角を切り崩す術は見つからない。


「マスター。さらに、上空から複数の生命体が出現するのを感知しました」

「『カーラ』が、新たに喚んだ飛行系の召喚獣か。空を飛んで、ここから逃げるのは不可能だな」


プラネットの警告に、奏良は不満そうに空から視線を逸らした。


「お兄ちゃん、これからどうしたらーー」


予想外の出来事を前にして、花音が疑問を口にしようとした瞬間ーー


「……何もしなくていいぞ」


響き渡ったその声に、望達は大きく目を見開いた。


「心配するな、妹よ。打開策は考えている」

「さすが、お兄ちゃん!」


誇らしげにそう言い放った有を見て、花音は顔を輝かせる。

望達とニコット達による、隠しようもない戦意と敵意。

一触即発の空気はーー


「鶫原徹、そして『アルティメット・ハーヴェスト』の者達よ! 望を監視しているのだろう?」


森の奥へと声をかけた有によって、一瞬にして霧散した。

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