あの日、美羅と同化したことで、リノアは現実世界に戻ってきても目を覚ますことはなく、眠り続けている。
押し寄せる不安の中、勇太が確信したのは、このまま手をこまねいていては、もう二度と以前の彼女に会えなくなってしまうということだった。
その疑念を払拭するため、勇太は行動を開始する。
リノアをこの病院から救いたい。
声には出さなかったが、胸に抱いた意思を彼らは汲み取ったようだ。
「……っ」
病室を訪れていた『アルティメット・ハーヴェスト』のギルドメンバー達が動く。
今までは信也の目があったため、彼らはリノア救出のために、おおやけには動くことはできなかった。
だが、信也とかなめは、仮想世界で望達に倒されたことにより、明晰夢の力を失っている。
そのおかげで、紘の特殊スキル、『強制同調(エーテリオン)』の力で二人の動きを封じていることができた。
「ここから先は、私達にお任せください。リノア様は、『アルティメット・ハーヴェスト』の管轄の私の個人病院にお運びします」
「くれぐれも病室の外にいる方々には、内密にお願いします。私達が出て行っても、リノア様がこの病室にいるように振る舞ってください」
「分かった」
『アルティメット・ハーヴェスト』のギルドメンバー達の報告に、勇太はしっかりと頷いた。
「でも、どうやって病室から出るんだ? 病室の外には、多くの人達がいるよな」
「ご心配ありません。手は打ってあります」
『アルティメット・ハーヴェスト』のギルドメンバー達がそう答えた瞬間、病室の壁に隠し扉のようなものが現れる。
「もしかして、非常用の通路につながっているのか?」
「はい。そこからでしたら、リノア様を救出することができるはずです」
救命器具をつけて運ばれていくリノアの様子に、勇太は表情をこれ以上ないほど綻ばせる。
感情を曝け出し、己の想いを口にするならば、勇太が告げるのはいつだって同じ誓いだ。
『私は、明日から美羅様に生まれ変わるの』
『生まれ変わる?』
『うん。だから、明日から、あなたに会うことはない』
勇太の脳裏には胸のつかえが取れたように微笑むリノアの姿。
もうどのくらい会っていないんだろうか。
本来のリノアと交わした会話の数々を勇太は懐かしむ。
『ねえ、勇太くんは何か望みはある? 私の望みは、美羅様になることなの』
賢が求めた理想を体現しようとするあの頃のリノアの姿が、勇太の心の琴線に触れた。
「リノア、おまえの望みは美羅になることじゃないからな。それを、今から証明してやる」
勇太は遠い記憶に掘り起こしたことで、改めて自分が為すべきことを触発された。
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