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留菜マナ
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第五百十四話 たった一つの誓い⑤

公開日時: 2024年9月16日(月) 16:30
文字数:1,057

あの日、美羅と同化したことで、リノアは現実世界に戻ってきても目を覚ますことはなく、眠り続けている。

押し寄せる不安の中、勇太が確信したのは、このまま手をこまねいていては、もう二度と以前の彼女に会えなくなってしまうということだった。

その疑念を払拭するため、勇太は行動を開始する。


リノアをこの病院から救いたい。


声には出さなかったが、胸に抱いた意思を彼らは汲み取ったようだ。


「……っ」


病室を訪れていた『アルティメット・ハーヴェスト』のギルドメンバー達が動く。

今までは信也の目があったため、彼らはリノア救出のために、おおやけには動くことはできなかった。

だが、信也とかなめは、仮想世界で望達に倒されたことにより、明晰夢の力を失っている。

そのおかげで、紘の特殊スキル、『強制同調(エーテリオン)』の力で二人の動きを封じていることができた。


「ここから先は、私達にお任せください。リノア様は、『アルティメット・ハーヴェスト』の管轄の私の個人病院にお運びします」

「くれぐれも病室の外にいる方々には、内密にお願いします。私達が出て行っても、リノア様がこの病室にいるように振る舞ってください」

「分かった」


『アルティメット・ハーヴェスト』のギルドメンバー達の報告に、勇太はしっかりと頷いた。


「でも、どうやって病室から出るんだ? 病室の外には、多くの人達がいるよな」

「ご心配ありません。手は打ってあります」


『アルティメット・ハーヴェスト』のギルドメンバー達がそう答えた瞬間、病室の壁に隠し扉のようなものが現れる。


「もしかして、非常用の通路につながっているのか?」

「はい。そこからでしたら、リノア様を救出することができるはずです」


救命器具をつけて運ばれていくリノアの様子に、勇太は表情をこれ以上ないほど綻ばせる。

感情を曝け出し、己の想いを口にするならば、勇太が告げるのはいつだって同じ誓いだ。


『私は、明日から美羅様に生まれ変わるの』

『生まれ変わる?』

『うん。だから、明日から、あなたに会うことはない』


勇太の脳裏には胸のつかえが取れたように微笑むリノアの姿。

もうどのくらい会っていないんだろうか。

本来のリノアと交わした会話の数々を勇太は懐かしむ。


『ねえ、勇太くんは何か望みはある? 私の望みは、美羅様になることなの』


賢が求めた理想を体現しようとするあの頃のリノアの姿が、勇太の心の琴線に触れた。


「リノア、おまえの望みは美羅になることじゃないからな。それを、今から証明してやる」


勇太は遠い記憶に掘り起こしたことで、改めて自分が為すべきことを触発された。

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