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留菜マナ
留菜マナ

第四十話 星空のプラネット⑤

公開日時: 2020年11月21日(土) 16:30
文字数:1,186

「俺達、特殊スキルの使い手を狙う高位ギルドか」

「望くんと愛梨ちゃんは、絶対に私達が守るよ」


望が咄嗟にそう言ってため息を吐くと、花音は元気づけるように望を見上げた。


「花音、ありがとうな」

「うん」


望が誠意を伝えると、花音は朝の光のような微笑みを浮かべた。


絶対に守るーー。


その言葉には何の根拠もなく、何かの保証には決してなり得ないことを知りながら、花音が口にすると、まるでそれは既に約束された未来の出来事のように感じられた。

望の中で、漲る力が全身を駆け巡る。

望が感慨にふけていると、奏良は思案するように城下町へと視線を巡らせた。


「有、これからどうするんだ?」

「宿屋に向かうつもりだ」


奏良の疑問を受けて、有はインターフェースで表示した王都、『アルティス』のマップを見つめる。


「宿屋か。やはり、冒険者ギルドには赴かないんだな」

「ああ。多くのソロプレイヤーは利便性を考えて、五大都市の宿屋を拠点としているからな。冒険者ギルドに赴かなくとも、宿屋なら、ギルドに所属していないプレイヤーがいるだろう」


奏良の言及に、有は落ち着いた口調で答える。


「でも、お兄ちゃん。今はお昼だから、ソロプレイヤーの人達も、クエストに出向いているんじゃないのかな?」

「その通りだ、妹よ。だからこそ、宿屋に行く必要がある。新しいクエストの噂を聞けるかもしれない。そうすれば、次に挑むクエストの見通しが立つからな」


花音が声高に疑問を口にすると、有は意味ありげに表情を緩ませた。


「すごーい! さすが、ギルドマスターのお兄ちゃんだね!」


有の思慮深さに、花音は両手を広げて歓喜の声を上げる。

居ても立ってもいられなくなったのか、花音はモンスターに攻撃する際の身振り手振りを加えながら飛び跳ねた。


「お兄ちゃん、今度、挑むことになるクエストって、どんな感じなのかな? どんな相手でも、私の天賦のスキルで倒してみせるよ!」

「花音。まだ、クエストの受注すらしていない。そして、少し場所をわきまえてくれ」


花音が自信満々で告げると、奏良は呆れたように視線を周囲に飛ばす。


「ねえ。あの子達、クエスト、受けるのかな?」

「そうだな」

「クエストか……。さっき冒険者ギルドで聞いた話だが、特殊スキルの使い手がいる上位ギルドが、昨日のカリリア遺跡の限定クエストを達成したみたいだぞ!」


花音が奏良の視線を追うと、中央の大通りを歩いていたプレイヤー達がこちらを見て話をしていた。


「その、お騒がせしてしまってごめんなさい」


周囲の反応に、花音は気まずい表情を浮かべて謝罪する。

だが、幸い、花音の方に注目が集まっており、望が噂されている『特殊スキルの使い手』だということは気づかれなかった。


「望、奏良、父さん、母さん、妹よ、宿屋に向かうぞ! これからのことは宿屋についてから話し合う」

「ああ、分かった」

「うん」


有の指示に、望は花音の腕を引いて、宿屋へと向かった。


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