「俺達、特殊スキルの使い手を狙う高位ギルドか」
「望くんと愛梨ちゃんは、絶対に私達が守るよ」
望が咄嗟にそう言ってため息を吐くと、花音は元気づけるように望を見上げた。
「花音、ありがとうな」
「うん」
望が誠意を伝えると、花音は朝の光のような微笑みを浮かべた。
絶対に守るーー。
その言葉には何の根拠もなく、何かの保証には決してなり得ないことを知りながら、花音が口にすると、まるでそれは既に約束された未来の出来事のように感じられた。
望の中で、漲る力が全身を駆け巡る。
望が感慨にふけていると、奏良は思案するように城下町へと視線を巡らせた。
「有、これからどうするんだ?」
「宿屋に向かうつもりだ」
奏良の疑問を受けて、有はインターフェースで表示した王都、『アルティス』のマップを見つめる。
「宿屋か。やはり、冒険者ギルドには赴かないんだな」
「ああ。多くのソロプレイヤーは利便性を考えて、五大都市の宿屋を拠点としているからな。冒険者ギルドに赴かなくとも、宿屋なら、ギルドに所属していないプレイヤーがいるだろう」
奏良の言及に、有は落ち着いた口調で答える。
「でも、お兄ちゃん。今はお昼だから、ソロプレイヤーの人達も、クエストに出向いているんじゃないのかな?」
「その通りだ、妹よ。だからこそ、宿屋に行く必要がある。新しいクエストの噂を聞けるかもしれない。そうすれば、次に挑むクエストの見通しが立つからな」
花音が声高に疑問を口にすると、有は意味ありげに表情を緩ませた。
「すごーい! さすが、ギルドマスターのお兄ちゃんだね!」
有の思慮深さに、花音は両手を広げて歓喜の声を上げる。
居ても立ってもいられなくなったのか、花音はモンスターに攻撃する際の身振り手振りを加えながら飛び跳ねた。
「お兄ちゃん、今度、挑むことになるクエストって、どんな感じなのかな? どんな相手でも、私の天賦のスキルで倒してみせるよ!」
「花音。まだ、クエストの受注すらしていない。そして、少し場所をわきまえてくれ」
花音が自信満々で告げると、奏良は呆れたように視線を周囲に飛ばす。
「ねえ。あの子達、クエスト、受けるのかな?」
「そうだな」
「クエストか……。さっき冒険者ギルドで聞いた話だが、特殊スキルの使い手がいる上位ギルドが、昨日のカリリア遺跡の限定クエストを達成したみたいだぞ!」
花音が奏良の視線を追うと、中央の大通りを歩いていたプレイヤー達がこちらを見て話をしていた。
「その、お騒がせしてしまってごめんなさい」
周囲の反応に、花音は気まずい表情を浮かべて謝罪する。
だが、幸い、花音の方に注目が集まっており、望が噂されている『特殊スキルの使い手』だということは気づかれなかった。
「望、奏良、父さん、母さん、妹よ、宿屋に向かうぞ! これからのことは宿屋についてから話し合う」
「ああ、分かった」
「うん」
有の指示に、望は花音の腕を引いて、宿屋へと向かった。
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