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留菜マナ
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第五百三十五話 黄昏の想いは②

公開日時: 2024年11月29日(金) 16:30
文字数:1,039

自身の中にある美羅という存在。

だけど、リノアの心に勇気が湧いてくる。

勇太への想いが、その不安をまるで雪解けのように溶かしていったから。


『アーク・ライト!』

「……っ!」


リノアの父親は光の魔術を使って、リノアの体力を回復させる。


『お願い、ジズ! リノアに力を与えて!』


それと同時にリノアの母親も、自身の召喚のスキルで小さな精霊を呼び出し、リノアの攻撃力を上げた。


「リノア、危険な目に合わせてしまってすまない」

「リノア、ごめんね」

「お父さん、お母さん……」


リノアの両親の懇願に、リノアの表情は深い闇に光がさしたように少しずつ和らいでいく。

その光景を目の当たりにした勇太は、真剣な眼差しで言った。


「世界がリノアを忘れても、俺はリノアを忘れないからな!」

「そうはさせるか。柏原勇太、これ以上、美羅様をたぶらかすな」


勇太の想いに、『レギオン』のギルドメンバーは警戒するように冷たく言い切った。

戦いはさらに苛烈さを増していく。

それでも、その機械に打ち込んだようなリノアの言葉の中に、勇太は一縷の望みをかける。

リノアの笑った顔も、泣いた顔も、恥ずかしがる顔も、ふて腐れた顔も、全てが愛おしいと感じたから。


「俺は、リノアが大好きだ!」

「あ……」


その言葉はーー『レギオン』のギルドメンバー達の想像をはるかに越えて、リノアを強く刺激した。


「だから、頼む! 本当の自分を取り戻してくれよ!」


勇太の懇願と同時に。

まるで魂を直接、触られているような不快感がリノアを襲う。


「うぅ、うぁぁ……。あぁぁぁぁぁっ!」


堪えようとしても堪えきれない声が、リノアの口から突いて溢れた。

顔を青ざめ、身体は小刻みに震えている。

リノアは嗚咽を漏らし、涙を止め処(ど)もなく流していた。


「負けるな! リノアはリノアだろう! 女神様なんかじゃない! だから、女神様の意思なんかに負けるな!」

「私は、私……」


力強い勇太の声に、リノアの心は大きく揺さぶられた。


『……勇太くんと仲直りできなかったのが、心残りだったな』


今にも壊れてしまいそうな繊細な声が、言葉を紡ぐ。

リノアは不意に、『同化の儀式』を執り行った日を思い出す。


……そうだ。

私、勇太くんと仲直りしたかった。


ただそれだけの想いが激しくリノアの心臓を打ち鳴らし、ひとかけらの冷静さをも奪い去ってしまった。

涙が止まらなかった。

湧き水のように溢れ出してきて、止めることができなかった。


「勇太くん、ごめんなさい。あの時、ひどいことばかり言って」


様々な記憶の断片が、リノアに一つの真実を呼び起こす。

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