自身の中にある美羅という存在。
だけど、リノアの心に勇気が湧いてくる。
勇太への想いが、その不安をまるで雪解けのように溶かしていったから。
『アーク・ライト!』
「……っ!」
リノアの父親は光の魔術を使って、リノアの体力を回復させる。
『お願い、ジズ! リノアに力を与えて!』
それと同時にリノアの母親も、自身の召喚のスキルで小さな精霊を呼び出し、リノアの攻撃力を上げた。
「リノア、危険な目に合わせてしまってすまない」
「リノア、ごめんね」
「お父さん、お母さん……」
リノアの両親の懇願に、リノアの表情は深い闇に光がさしたように少しずつ和らいでいく。
その光景を目の当たりにした勇太は、真剣な眼差しで言った。
「世界がリノアを忘れても、俺はリノアを忘れないからな!」
「そうはさせるか。柏原勇太、これ以上、美羅様をたぶらかすな」
勇太の想いに、『レギオン』のギルドメンバーは警戒するように冷たく言い切った。
戦いはさらに苛烈さを増していく。
それでも、その機械に打ち込んだようなリノアの言葉の中に、勇太は一縷の望みをかける。
リノアの笑った顔も、泣いた顔も、恥ずかしがる顔も、ふて腐れた顔も、全てが愛おしいと感じたから。
「俺は、リノアが大好きだ!」
「あ……」
その言葉はーー『レギオン』のギルドメンバー達の想像をはるかに越えて、リノアを強く刺激した。
「だから、頼む! 本当の自分を取り戻してくれよ!」
勇太の懇願と同時に。
まるで魂を直接、触られているような不快感がリノアを襲う。
「うぅ、うぁぁ……。あぁぁぁぁぁっ!」
堪えようとしても堪えきれない声が、リノアの口から突いて溢れた。
顔を青ざめ、身体は小刻みに震えている。
リノアは嗚咽を漏らし、涙を止め処(ど)もなく流していた。
「負けるな! リノアはリノアだろう! 女神様なんかじゃない! だから、女神様の意思なんかに負けるな!」
「私は、私……」
力強い勇太の声に、リノアの心は大きく揺さぶられた。
『……勇太くんと仲直りできなかったのが、心残りだったな』
今にも壊れてしまいそうな繊細な声が、言葉を紡ぐ。
リノアは不意に、『同化の儀式』を執り行った日を思い出す。
……そうだ。
私、勇太くんと仲直りしたかった。
ただそれだけの想いが激しくリノアの心臓を打ち鳴らし、ひとかけらの冷静さをも奪い去ってしまった。
涙が止まらなかった。
湧き水のように溢れ出してきて、止めることができなかった。
「勇太くん、ごめんなさい。あの時、ひどいことばかり言って」
様々な記憶の断片が、リノアに一つの真実を呼び起こす。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!