あまりにも冷酷な事実に、花音は思わず感情を爆発させた。
「望くんと愛梨ちゃんとリノアちゃんに酷いことしないで!」
「彼らに無礼を働いていることは謝罪しよう」
花音の訴えに、賢はあっさりと自分の非を認めた。
「だが、これは必要な事項だ」
花音の嫌悪の眼差しに、賢は大仰に肩をすくめてみせる。
「美羅様のために、私がするべきことだからな」
「美羅のため……?」
今の状況を冷静に分析する賢をよそに、勇太は苦痛と不可解が入り交じった顔でつぶやいた。
「おまえが愛した吉乃美羅は、もういないだろう……」
勇太が発した悲哀の声に、賢は凍りついたように動きを止める。
その瞬間、沼底から泡立つように浮かんだ一毅の言。
『『究極のスキル』を使って、美羅を生き返させてくれないか……』
それは、一毅が賢達に託した遺言。
いつしか賢にとってーー賢達にとって、その望みを叶えることが生き甲斐となっていた。
賢と信也とかなめ、一毅と美羅。
五人の関係を崩壊させた忌まわしき事故が、まるで昨日のことのように追憶される。
「何故、だ……」
「一毅、美羅、しっかりしろ!」
「そんな……」
あの日、賢達の慟哭にも似た叫び声が轟いた。
悲痛な声は、夜空に吸い込まれて消える。
彼らの死亡原因は、ワゴン車に乗って研究室へと赴いていた際、車同士の衝突事故に巻き込まれたことだった。
吉乃一毅。
吉乃美羅。
二人の通夜と告別式に参列し、賢達は一毅と美羅の死を否応なしに実感する。
『『究極のスキル』を使って、美羅を生き返させてくれないか……』
一毅が最期に残した遺言。
それは、死にゆく者が残された者達に対して遺した言葉。
その夜、賢達の心中で、彼の言葉が残響のように繰り返される。
それはまるで、祈りを捧げるような願いだった。
一毅のその言葉は、今までのどの言葉よりも賢達の心に突き刺さり、的確に賢達の心を揺さぶり続ける。
今も終わることのない友人から託された使命。
それが残された賢達の生き様であり、成すべきことだった。
「美羅様はーー吉乃美羅様は生きている。彼女(リノア)の中でな」
勇太が放った言葉を、賢は不敵な笑みを浮かべて一蹴した。
あの日、思考を加速させた賢は、やがて禁断の方法へと目を向ける。
それは、特殊スキルの使い手達のデータを収集して、新たな特殊スキルの使い手ーー美羅を産み出そうというものだった。
賢は、自身の思想に共感したプレイヤー達とともに、『レギオン』を発端させるとすぐに動き出した。
特殊スキルの使い手である愛梨のデータを収集すると、ギルドメンバー達のスキルを複合させて、そのデータベースを再構築(サルベージ)させるという離れ技を実行してみせたのだ。
最初は、ただの愛梨と吉乃美羅のデータの集合体だった『救世の女神』という存在。
しかし、特殊スキルの使い手である望と愛梨にシンクロさせることによって、実際の人間と同化させられるところまで進化を果たしていた。
「後は、椎音愛梨とのシンクロだけだ」
儚き過去への回想ーー。
沈みかけた記憶から顔を上げ、現実につぶやいた賢は、望と同じ動作をするリノアの様子を伺う。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!