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留菜マナ
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第ニ百四十六話 黄昏時の邂逅②

公開日時: 2021年5月22日(土) 16:30
文字数:1,508

「よし、妹よ。このダンジョンから一旦、脱出するぞ!」

「うん」


有の指示に、花音は満面の笑顔で頷いた。

その時、イリスと戦闘を繰り広げていたニコットから、一筋の殺気が放たれる。


「そこです!」


しかし、その不意討ちは、プラネットには見切られていた。

プラネットは反射的に飛んできたダガーを避けると、その方向に向かって電磁波を飛ばした。


「ーーっ」


初擊の鋭さから一転してもたついたニコットは、電磁波の一撃をまともに喰らい、苦悶の表情を浮かべる。


「喰らえ!」


そこに、奏良の銃弾が放たれた。

弾は寸分違わず、ニコットに命中する。


「戦闘維持。指令を妨害され続けたことにより、このまま交戦態勢を継続します」

「ニコットちゃん!」


急速に反転する攻防を前にして、花音は大きく目を見開いた。


「有様。今、ここに居ると発覚しているのは、彼女一人ですがーー」

「ああ。恐らく、まだ、特殊スキルの使い手を狙っている者達がいるだろう」


プラネットの躊躇いに、有は思案するように視線を巡らせる。


「ダンジョン脱出用のアイテムを使用して、この場所から離脱することはできませんでしょうか?」

「プラネットよ、分かっている。とにかく、ダンジョン脱出用のアイテムを使って、ダンジョンの外に出るぞ! 外に出たら、他の『アルティメット・ハーヴェスト』のギルドメンバー達と合流できるからな!」


プラネットの申し出に、有は思案するように視線を巡らせた。

望達がダンジョン脱出用のアイテムを掲げた有の傍に立つと、地面にうっすらと円の模様が刻まれる。

しかし、そこにニコットがダガーを叩き込み、発動を阻害してきた。


「なっ! ダンジョン脱出用のアイテムの効果を阻害することができるのか?」

「ニコットの目的は、美羅様と特殊スキルの使い手をシンクロさせることです。ここから出すわけにはいきません」


奏良の疑問に発したのは、提案でも懐柔でもなく、断固とした命令。


「プラネットよ、残念だが不可能のようだ。今回も、ダンジョン脱出用のアイテムなどは容易に使用させてはもらえないようだ」


ダガーを構えたニコットを見据えて、有は苦々しく唇を噛みしめた。

有の指摘どおり、ニコットは有達のアイテムの使用を防ぐための徹底な構えを練り上げている。

恐らく、今、ダンジョン脱出用のアイテムを使おうとしても、先程と同じ結果に終わるだろう。


「どうすればいいんだ?」

「どうすればいいの?」


周囲に視線を巡らせた望とリノアの顔には、はっきりと絶望の色が浮かんでいた。


「徹様、彼女の目的は、やはり蜜風望様と椎音愛梨様との接触のようです」

「分かった。しばらくの間、足止めを頼むな」

「了解しました」


イリスと今後の方針を交わし終えた後、徹は神妙な面持ちでダンジョンを眺めた。

躍動する闇と槍の光が入り乱れる戦場を、イリスは凄まじい速度で駆ける。

彼女の繰り出す斬撃は早く鋭く、初撃を振り切ったニコットをいとも容易く切り裂いていく。


「指令を継続するために、まずはそのための妨害対象を優先的に排除します」

「随分と余裕ですね」


ニコットの戯れ言に、イリスは不満そうに表情を歪める。


「あなたに警告します。今すぐ、ここから立ち去りなさい」

「お断りします。ニコットはこのまま、指令を続行します」

「なら、私も力ずくで、あなたを排除させて頂きます!」


ニコットの言葉に呼応するように、気迫の篭ったイリスの声が響き、行く手を遮るモンスター達が次々と爆ぜていった。

疾風の如く襲い掛かってくる兇嵐の槍を、ニコットはダガーを連射して捌いていく。


「邪魔をしないで下さい!」


イリスが空中で武器を素早く構え直し、気合いを入れる。

気合いとともに繰り出される三連撃で、モンスター達を斬り捨てた。

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