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留菜マナ
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第八十七話 救世の女神と星の溶けた世界⑤

公開日時: 2020年12月15日(火) 07:00
文字数:1,640

「ーーっ」


何十回目かの長い斬り合いは、賢が繰り出した斬撃によって、望が大きく吹き飛ばされたことで中断される。

既に、望のHPが半分を切ったのにも関わらず、賢のHPはまだ、ほとんど減っていない。


「……強い」


独りごちた望は、決定的変化に瞳を細める。

水の魔力、そして望と愛梨の特殊スキルが込められた蒼の剣に対抗する力を備わった伝説の武器。

複合スキルによって強化された『星詠みの剣』は、まさに伝説の武器に相応しい力を発揮していた。


「蒼の剣、頼む。みんなを守る力を!」


しかし、望は起死回生の気合を込めて、剣を中段に構えて前に踏み込みながら打ち込んだ。

だが、苦し紛れに繰り出した望の反撃は、ぎりぎりのところで、賢に回避されてしまう。


「ここまでのようだな……っ?」


望と同様に打ち込もうと一歩踏み込んだ賢は、瞬間の違和感に急制動をかける。

その直後、回避されたのにも関わらず、望は追撃とばかりに斬撃を斬り込んできた。


「なっ!」


間一髪で直撃を避けた賢は、一気に剣撃の間合いまで迫っていた望を見て驚愕する。


「これで終わりだ!」


賢が驚きを口にしようとした瞬間、望は乾坤一擲のカウンター技を放つ。

望の声に反応するように、蒼の剣からまばゆい光が収束する。

蒼の剣の刀身が燐光(りんこう)を帯びると、かってないほどの力が満ち溢れた。


「はあっ!」


望はその一刀に全てを託し、賢に向かって連なる虹色の流星群を解き放つ。

望の特殊スキルと愛梨の特殊スキル。

それが融合したように、賢に巨大な光芒が襲いかかる。


「ーーっ」


迷いのない一閃とともに、望の強烈な一撃を受けて、賢は初めて、たたらを踏んだ。

賢のHPが、今までにない速度で一気に減少する。

頭に浮かぶ青色のゲージは、瀕死の赤色に変化していた。


「賢様!」

「今だ!」


戦局全体を見極めていた奏良は、銃を構えると範囲射撃をおこなう。


「ーーっ」


不意を突いた連続射撃は、回復に動こうとした『カーラ』のギルドメンバー達を怯ませる。


「よし、今のうちに全て解除するぞ!」


それは絶好の好機だった。

有は避雷針の罠を解除するため、混乱する『カーラ』のギルドメンバー達の只中を駆け抜ける。


「プラネットちゃん、行くよ!」

「はい」


花音とプラネットは並走して、苛烈な連携攻撃を『カーラ』のギルドメンバー達に加えていった。


「賢様……」

「ーーよしっ!」


一方、徹と相対していたかなめの表情は、予想外の展開を前にして悲哀を帯びていた。

逆に、目の前で巻き起こる想定どおりの結果に、拳を突き上げた徹は安堵の表情を浮かべる。


「光の魔術を使って、シンクロを再び、おこなわせるわけにはいかなかったからな」

「そうですね。それを行わなかったのは、私の不手際です」


徹の訴えに、かなめはあっさりと自分の非を認めた。

勝負の趨勢(すうせい)が見え始めていた頃、傍観していたニコットは単なる事実の記載を読み上げるかのような、低く冷たい声で宣告する。


「手嶋賢様。ニコットはこのまま、蜜風望のシンクロを続行します」

「シンクロ……?」


無邪気に嗤うニコットの発言を聞いて、望は嫌な予感がした。

しかし、望の驚愕には気づかずに、ニコットは淡々と一方的な要求を告げる。


「はい。契約に従い、蜜風望と美羅様へのシンクロを継続していきます」

「意味が分からない。それにまだ、決着はついてないだろう?」

「ニコットは指令を続行します」


答えになっていない返答に、望はため息をつきたくなるのを堪える。

そのタイミングで、賢は咎めるようにして言った。


「ニコット。彼の言うとおりだ。まだ、決着はついてない」

「手嶋賢様、了解しました」


賢の指示に、ニコットは素直に従う。


「シンクロによる、不意討ちをしてこないんだな」

「この機会を逃すわけにはいかないからな」


状況説明を欲する望の言葉を受けて、賢は表情の端々に自信の満ちた笑みをほとばしらせた。


「それに、今回の勝負は引き分けだ」

「引き分け?」

「ああ」


望がその言葉の意味に気づくのに十数秒の時間を要しーーその十数秒が劇的に戦局を変えた。


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