「愛梨よ。望から聞いたのだが、椎音紘から今回の作戦のことを聞いているのだな?」
有の疑問に、愛梨は持っている杖をぎゅっと握りしめたまま、恥ずかしそうに顔を俯かせる。
しかし、このままでは話が先に進まないと思ったのだろう。
愛梨は顔を上げると、意を決して話し始めた。
「うん。お兄ちゃんから聞いた」
「そうなんだね」
訥々と答える愛梨を前にして、花音が視線を合わせて優しく微笑む。
そのタイミングで、有は深々とため息をついて切り出した。
「愛梨よ、頼む。力を貸してほしい。愛梨の特殊スキルなら、この状況を打破し、吉乃信也を捕らえることができるはずだ」
「ーーなっ!」
「……っ」
有の静かな決意を込めた声。
付け加えられた言葉に込められた感情に、弾丸をリロードしていた奏良が戦慄して、愛梨は怯えたように花音の背後に隠れる。
「愛梨ちゃん、大丈夫だよ」
「花音」
「一緒に頑張ろう」
「……うん」
後ろを振り返った花音が励ますように手を差し伸べると、愛梨は恐る恐るその手を取る。
「愛梨の特殊スキルなら、この戦いを終わらせることができるはずだ」
その様子を見守っていた徹は屈託のない様子でつぶやいた。
『創世のアクリア』のプロトタイプ版を産み出した四人の開発者ーー。
『救世の女神』を産み出すという禁忌を犯したことで始まった戦いは、仮想世界だけではなく、現実世界までも浸食していった。
漠然とした想いのまま、徹達は理想の世界へと変わった現実世界での日々を過ごしている。
しかし、特殊スキルの使い手達だけではなく、一介のプレイヤーである自分にもできることはあるはずだ。
相手は『創世のアクリア』のプロトタイプ版を産み出した四人の開発者に関わっている吉乃信也。
予想以上に長丁場になりつつある激戦。
それでも徹はこの戦いに勝ち目があると実感している。
だからこそ、みんなで一緒に立ち向かう。
理想の世界という定められた運命に対抗するためにーー。
「愛梨ちゃんの特殊スキル? ーーあっ、メルサの森の時みたいに愛梨ちゃんの特殊スキルの力と奏良くんの風の魔術の力を込めてもらったら、きっと……!」
その時、不意の閃きが花音の脳髄を突き抜ける。
自身の鞭を眺めていた花音が興味津々な様子で訊いた。
「ねえ、愛梨ちゃん。この鞭にも、奏良くんの弾丸のように、愛梨ちゃんの特殊スキルを込められないかな?」
「……この鞭にも?」
花音のどこか確かめるような物言いに、愛梨は不思議そうに小首を傾げた。
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