「先生……いや、吉乃信也からリノアを元に戻す方法を聞き出してみせる!」
ソロプレイヤーの時は、ただ闇雲に突っ走るだけだった。
だが、有達のギルド『キャスケット』に加入した事で、勇太の視界は広がった。
誰かと共にあるという意識は、追いつめられていてもなお、決して自分達が負けることはないという不屈の確信をかきたてるものだと喚起させる。
『キャスケット』というギルドの存在は、勇太達にとって希望を表している。
その事実は勇太達の心に厳然たる現実として刻まれていた。
その証左に、勇太達は『キャスケット』を通じて多くの人達に出逢ってきたのだからーー。
「そのためには現実世界にいる手嶋賢と吉乃かなめの動きを見定める必要がある」
勇太の決意を聞いた紘は改めて自分が為すべきことを触発された。
やがて、感情の消えた瞳とともに、紘はあくまでも自分に言い聞かせるように継げる。
「今の美羅は人智を超えた成長を遂げる『究極のスキル』そのものであり、時には特殊スキルの使い手である私達の力を超えるほどの絶対的な力を持っている」
「うーん。少なくとも美羅ちゃんの力は、特異な『明晰夢』の力を吉乃信也さん達に授ける段階で絶対的だよ」
その紘の言葉を聞いた瞬間、花音は眸に困惑の色を堪えた。
「美羅は『レギオン』の者達が産み出した、愛梨と吉乃美羅のデータを合わせ持つ『救世の女神』ともいうべき存在だ。特殊スキルの使い手である蜜風望と愛梨にシンクロさせることによって、実際の人間ーー久遠リノアと同化させられるところまで進化を果たしている。この進化をこれ以上、進めさせるわけにはいかない」
「ああ。進化を止めるためにも、まずは手嶋賢と吉乃かなめの動きを把握しないとな……」
どうしようもなく不安を煽るそのフレーズに、徹は焦りと焦燥感を抑えることができなかった。
「なら、吉乃信也からそのことを含めて聞き出してみせる!」
勇太の宣言に、紘は表情を変えなかった。ただ、一つの真実だけを紡ぎ出す。
「久遠リノアを元に戻すためのその代償。君は吉乃信也からそのことを告げられた時、必ず拒む」
「拒む……?」
風とともに翻る、青みがかかった銀髪。
鈴の音のような紘の声。
そのとらえどころのない意味深な言葉が、妙に勇太の頭に残った。
「蜜風望はいずれ自身に纏わる真相を知るだろう。その時、彼が私達の味方のままなのか、それとも敵になるのか……」
紘の胸を打つのは自身の特殊スキル、『強制同調(エーテリオン)』によってもたらされた未来の道標。これから歩む未来はそこへと通じる道だと痛いほどに思い出す。
世界は混迷を極めていた。
『アルティメット・ハーヴェスト』は管轄しているダンジョンなどへの対処に回っている。
だが、プロトタイプ版の運営はいまだ、開発者側の『レギオン』と『カーラ』が握っていた。
そして、仮想世界でしか存在していなかった美羅は現実世界という表舞台に姿を現し、ついには救世の女神にまでなっていた。
『レギオン』と『カーラ』が用意した理想の世界という遠大な計画。
一歩間違えば、世界が破綻していてもおかしくなかった。
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