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留菜マナ
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第五百三十八話 黄昏の想いは⑤

公開日時: 2024年12月9日(月) 16:30
文字数:1,125

「はあっ!」


望は剣を掲げると、連なる虹色の流星群を一閃とともに放つ。

望の特殊スキルと愛梨の特殊スキル。

それが融合したように、キマイラ達に巨大な光芒が襲いかかる。

一片の容赦もない蒼の剣の一振りを受けて、その場にいた全てのキマイラ達が消滅していった。


「この辺りは、もうモンスターはいないみたいだな」

「わーい! 望くん、大勝利!」


剣を下ろした望が一呼吸置くと、駆け寄ってきた花音は歓喜の声を上げた。


「望くんの特殊スキル、すごいね!」

「ありがとうな」


花音が声高に思いのままを述べると、望は照れくさそうに答えた。


特殊スキル。

世界を牛耳る力と謳われ、現実世界をも干渉する力。

そして、全ての世界そのものを改変させることすら可能な、万能の力。


有は紘が語っていた特殊スキルの内容を呼び起こす。


『美羅の器であるリノアは、『レギオン』と『カーラ』の者達にとって決して失うことができないカードだ。リノアが意識を失えば、一時的とは美羅の力は発動しない』


紘の淡々と語った内容、しかし有達には額面以上の重みがあった。


リノアの意識を覚醒させた場合も、美羅の力は発動しないのかもしれないな。


有は改めて、その意味を脳内で咀嚼する。


「はあっ!」


数の有利不利など凌駕する勢いで、望達は攻め立てた。

しかし、リノアが一時的に元に戻ったとはいえ、『レギオン』の防衛網を打ち破るのは一筋縄ではいかない。

それが分かっているからこそ、リノアの両親は冷静に対応していた。


「みなさん。『レギオン』のギルドホームはこちらです」

「リノア。このまま、『レギオン』のギルドホームまで行こう!」

「……うん。勇太くん、ありがとう」


美羅を消滅させる方法を掴めば、リノアを完全に元に戻せる可能性が引き上がる。

これから何かが起こると仮定すれば、そこだと思いながら。

勇太の瞳には複雑な感情が渦巻いていた。





望達が『レギオン』のギルドホームを目指して突き進んでいた頃。

賢はドアのセキュリティを解除して、部屋へと入る。

そこは、物々しい機材が置かれた研究室のような空間が広がっていた。

画面には、望達の戦いの模様が映し出されている。

賢は画面に目を向けると、周囲のギルドメンバー達に疑問を投げかけた。


「久遠リノアはどうなっている?」

「賢様、大変申し訳ございません。久遠リノアの意識が覚醒した模様です」


モニターのついた機材を操作して告げるのは、『レギオン』のギルドメンバーの一人だった。


「やはり、要はニコットか。ニコットは、通常のNPCの性能よりもあらゆる点で優れている。久遠リノアの意識が一時的に元に戻っても、こちらが有利なのは変わらない」


『レギオン』のギルドメンバーからの報告を聞いても、賢は表情の端々に自信に満ちた笑みをほとばしらせた。

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