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留菜マナ
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第三百六十ニ話 静閑を裂く⑤

公開日時: 2022年10月7日(金) 16:30
文字数:1,152

「では、『キャスケット』と『アルティメット・ハーヴェスト』を止めさせてもらおう」


それでも信也は自身の信念を曲げることはしない。

幾度を繰り返そうと、信也が信頼を寄せる賢と妹のかなめはきっとここで戦うことを選んだだろうから。

それに今まで培ってきたソロプレイヤーとしての経験を生かす敵としては絶好の相手だ。


一緒に戦ってくれると心強いなーー。


心強い救援。

望は一拍置いて動揺を抑えると、紘が口にした言葉を改めて、脳内で咀嚼した。

しかし、その間にも『レギオン』と『カーラ』のギルドメンバー達は前に進み出て、行く手を阻むように包囲を固めてくる。

当初の目的はダンジョンの同時調査ーー残りのダンジョンの調査を全て終えることと、護衛クエストのダンジョンで『レギオン』、もしくは『カーラ』の者を捕らえて情報を聞き出すことだった。

だが、出鼻を挫かれた時点で作戦の再考を余儀なくされる。

しかし、この戦いで『レギオン』の者か、『カーラ』の者を捕らえたくても、動きが阻まれている望達はなかなか実行に移すことができない。


「前に進めないな」

「前に進めないね」


包囲を崩そうしても、すぐに強固な陣形を組まれてしまう。

望とリノアは剣を構え、活路を見出だすために周囲を見渡した。

必然的に上空の戦闘はイリス達、骨竜達の対策は徹達に任せることになる。

望とリノアが駆け出し、目の前の『レギオン』のギルドメンバーに向かって一閃したーーその瞬間だった。


「「ーーっ」」


リノアの位置が移動し、望と対面するかたちへと変えられる。

望とリノアの鍔迫り合いは一瞬で終わり、高い音を響かせて離れた二人は、そこから驚異的な剣戟の応酬を見せた。

互いの剣技は、きっちり打ち消し合う一閃で処理される。

高度で複雑な剣閃の応酬。

だが、それはリノアの座標をずらされることで、『レギオン』と『カーラ』のギルドメンバー達には届かない。


「「ーーっ!」」


このまま続けても埒が明かない状況に、望とリノアは咄嗟に急制動をかける。


「『明晰夢』の力を行使することができないのなら、別の手段を用いるだけだ」


開発者側の権限を巧みに行使して、リノアの座標をずらす。

望達の一連の動きを改めて見て、信也はすぐにその決断を下した。


「椎音紘。君が私の『明晰夢』の力を封じるというのなら、私達は別の手で君達を捕らえよう」


信也はこの戦いの先を見据えて告げた。

街道の各所からは、戦いの音が遠雷のように響いてくる。


有がギルドマスターを務める『キャスケット』。

紘がギルドマスターを務める『アルティメット・ハーヴェスト』。

賢が参謀を務める『レギオン』。

かなめがギルドマスターを務める『カーラ』。

互いの意気込みは十分。

士気は互いに高く、しかし冷静さも同時に持っている。

四大ギルドの衝突により、街道の戦闘は混戦状態になっていった。

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