「そのようなことは不可能だ」
「そんなことない! 美羅ちゃんの残滓はできるって言っていたから!」
花音の断言に、賢は苦虫を噛み潰したような顔になる。
「……その通りだ。やはり君達に、美羅様の残滓を奪われたのは失策だったな。せっかく、信也とかなめに『サンクチュアリの天空牢』のダンジョンを構築してもらったというのに……」
「なっ!」
賢が語った真実に、徹は虚を突かれたように目を瞬かせてしまう。
疑問が氷解すると同時に戦慄させられた。
「しかし、驚きだ。君達は既に、美羅様の残滓と会話をしていたのか」
「……おまえ、俺達が会話していることを知っていて、わざと言っただろう」
賢の戯れ言に、徹は不満そうに表情を歪める。
「今、久遠リノアの意識が戻ったらまずいというのは事実だ。新たな美羅様の器になるためには、それ相当の準備が必要だからな」
賢の言葉を打ち消すように、徹はきっぱりとそう言い放った。
「とにかく、愛梨も紘も、そして望もリノアも、おまえ達に渡すつもりなんてないからな!」
「愛梨を守ることが僕の役目だ」
強い言葉で遮った徹の言葉を追随するように、奏良は毅然と言い切る。
「まずは、この場にいる者達を止める」
徹は気持ちを切り替えるように一呼吸置くと、『アルティメット・ハーヴェスト』のギルドメンバー達に目を向ける。
「そして、リノアをあの病院から連れ出してみせる。頼むぞ、勇太」
徹はリノア救出の作戦の要を勇太に託した。
「美羅様!」
「美羅様に会わせてくれ!」
リノアが入院している病院の前は、熱狂的な美羅の信者達によって溢れ返っていた。
「リノア……」
聴衆が未だ熱狂覚めやらぬ中、勇太は今も眠り続けているリノアを救おうとしていた。
リノアの両親は病室の前で、救世の女神である美羅ーーリノアを一目見ようとする訪問者達を必死に引き留めている。
美羅の信者ーーそれは、この病院の医者や看護師達もだ。
「ああ……。美羅様を診察することができるなんて素晴らしい……」
「美羅様の目覚める瞬間に立ち会いたいわ」
リノアの診察を終えた医者と看護師達が揃って、美羅を敬い崇めている。
その様子を辛辣そうな表情で見送ると、リノアの両親は勇太に向き直った。
「勇太くん。いつも、リノアのお見舞いに来てくれてありがとう」
「……ああ」
リノアの父親の感謝の言葉を聞きながら、勇太はリノアがこうなってしまった理由に固執する。
高位ギルド、『レギオン』と『カーラ』。
『レギオン』は、リノアとリノアの両親が所属していたギルドであり、特殊スキルの使い手の一人を元にしたデータの集合体ーー美羅をギルドマスターとして讃えている危険なギルドだ。
そして、『カーラ』は『レギオン』の傘下のギルドだ。
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